ぴょんぴょんの「セルビアにCIA長官が来た!」 ~リチウム騒動から、ロシアのクーデター警告まで

 これまで書いた「挑発するコソボ」シリーズは、その時々のトピックを断片的に取り上げているので、大きな流れがよくわかりません。
 流れを知りたい方は、最近公開された映像配信「アメリカ政権の変遷7(前編)」「アメリカ政権の変遷7(中編)」「アメリカ政権の変遷7(後編)」を、ぜひご覧ください。旧ユーゴスラビア解体のために、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争、スレブレニッツァの虐殺がなぜ起こされたのか、とてもわかりやすく解説されています。
 今なお、ボスニア・ヘルツェゴビナ、コソボ、セルビアの間に残した火種で、和平を許さないアメリカ(CIA)とNATO。同じ民族の彼らが、同胞としてふたたび一体になるのはいつの日か。
(ぴょんぴょん)
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ぴょんぴょんの「セルビアにCIA長官が来た!」 ~リチウム騒動から、ロシアのクーデター警告まで

コソボとセルビアの現状


コソボとセルビア、どうなってるの?

今年の2月1日、コソボの現金決済はユーロ一本になった。RFEL


コソボはEU加盟国でもないし、ユーロ圏にも入ってないのに?

コソボ・セルビア人を困らせるためだ。

なんで、ユーロになるとセルビア人が困るの?

セルビアはコソボ・セルビア人に、生活手当や年金、子ども手当てをセルビア・ディナールで送金している。だが、セルビア・ディナールを扱っている郵便局は違反ということで、すべて閉鎖されてしまった。RFEL

Wikimedia_Commons[Public Domain]

それじゃ、コソボ・セルビア人は、セルビアからの送金が下ろせなくなる。

それと別に、コソボ当局は8月7日、現在通行不能になっている、アルバニア人とセルビア人の居住区を分断する橋を再開すると発表した。ここが開通したら、コソボ・セルビア人は安心して暮らせなくなる。RFEL

コソボ・セルビア人はどんどん追い詰められているね。ところで、セルビアはどうなってるの? 再選挙は終わった?

再選挙について復習しよう。2023年12月17日のセルビア臨時議会選挙、同日行われた首都ベオグラード市議会選挙は、どちらもヴチッチ大統領の与党「セルビア進歩党(SNS)」が勝利した。ただ、ベオグラード市議会選挙は僅差だったため、不正選挙だとして抗議行動を指揮していた野党連合は、12月24日市議会庁舎に暴力的に侵入しようとした。事前にロシアから、「カラー革命」の警告を受けていたセルビア政府は、首尾よく阻止した。

ここで話したね。

その後も、現政権の反対派は集会を開いて不正選挙だ、再選挙だと騒ぎ立てるので、2024年6月2日、ベオグラード市議会選挙をやり直すことになったが、結果はヴチッチのセルビア進歩党(SNS)の勝利に終わった。(Wiki

ヴチッチ大統領
Author:duma.gov.ru[CC BY]

なあんだ、良かった。もひとつ、コソボとセルビアの国交正常化交渉はどうなってる? たしか、最後の首脳会談は2023年9月14日だったね。

セルビアの主張は、コソボ・セルビア人の居住区を独立させる「セルビア人自治体共同体(CSM)」を作ること。だが、コソボのクルティ首相はCSMを認める気はない。6月26日、ブリュッセルで、ヴチッチとクルティの会談の席が設けられたが、双方が話をすることはなく、失敗に終わった。(RFEL

そっか、でも、国民がヴチッチさんを支持している限り、セルビアは安泰だよ。


セルビアに飛んできたドイツのショルツ首相


いやいやいや! 実は、セルビアは今、大変なことになっている。2006年、セルビアで、ホウ素とリチウムの鉱石〈ジャダライト〉が発見されたのを覚えてるか?

ジャダライト
Author:Dungodung[CC BY-SA]

うん、ここで話したね。セルビアのジャダール渓谷で見つかった〈ジャダライト〉。見つけたのは、世界第2位の金属・鉱業会社「リオ・ティント」。

セルビア政府とリオ・ティントは2021年7月、〈ジャダライト〉発掘の覚書を交わし、24億ドル(約2700億円)の投資が約束されたThe Guardianが、立ち退き住民や環境保護団体が猛反対したことで、セルビア政府は2022年1月、採掘許可を取り下げた。総選挙を目前に控えての決定だったが、2024年7月11日、セルビアの憲法裁判所は、この決定を違憲と判断し、7月16日、リチウム採掘が再開されることが決まった。

へえ〜?!

それを聞きつけて、真っ先にセルビアに飛んできたのは、ドイツのショルツ首相。

ショルツ首相
Wikipedia[Public Domain]

なんで、ショルツ首相?

ドイツと言えば自動車産業、電気自動車、リチウム電池。7月19日、ショルツは、EU・セルビア間の「電気自動車に関する戦略的パートナーシップ」に署名した。実は、ジャダール渓谷に眠るリチウムの量はヨーロッパ最大級で、年間5万8000トン、電気自動車110万台分の生産が可能だという。RFEL

ショルツ首相、ヨダレ垂らしながら飛んできたんだ。

ショルツ「リチウムの採掘は、変化する世界でヨーロッパが主権を維持し、他国に依存しないために必要なことだ。」(RFEL

EUはリチウムを、中国に依存したくないからね。


環境汚染の抗議デモ


ショルツは大満足。ところが国民は大不満。ショルツが来て3日後の抗議集会がこれだ。

「セルビア市民が、リオ・ティントのリチウム採掘プロジェクトに反対するため、ヴァリェヴォの町の広場に集まった。彼らは、セルビアがリチウム採掘の植民地になることに反対して戦っていると語った。この抗議行動は、ドイツのショルツ首相とセルビアのヴチッチ大統領が、セルビアのリチウムを獲得するためのEUとセルビアの合意のために会談した3日後に行われた。」

国民の立場からすると、環境汚染が一番心配だよ。

それについて、ショルツは言った。「リオ・ティント社の社長に対し、採掘中のすべての環境基準を尊重するよう要請し、その保証を得た。」(RFEL)一方、ヴチッチは環境問題に楽観的だ。「私たちは、鉱山が誰にも何にも危害を及ぼすことはないと信じています。しかし、その前に、環境と一般市民の生活が保全され、新たな雇用と現在よりも高い賃金で改善されるという保証を、ヨーロッパから得る必要があります」(RFEL

セルビアが経済的に苦しいのはわかる。でも、おカネのために国土を汚染されたら、取り返しがつかない。すでに、セルビアとバルカン半島の大気汚染は、ヨーロッパで最悪だと聞くし。

そういう国民の不安に答えるために、ヴチッチはリチウム採掘場近くの町で、反対派のミーティングに出席し、その模様が公共テレビで放送された。

へええ?! 国のトップが住民のミーティングに出席? 日本じゃゼッタイありえない。

ミーティングでは、採掘現場周辺の水と土壌の化学分析を行っている化学者、サニャ・サカ博士が、リオ・ティントの調査発掘の段階から、すでに重金属が確認されていると発言した。X

うわあ、こりゃダメだ。 

これを考慮してか、ヴチッチは、採掘問題は国民投票で決めると言っている。また今後2年間は、国内でリチウムの採掘は行わないと述べた。(RT

これで、国民が納得するかな?

「中止」にならなければ、ダメだろうな。とゆうか、抗議活動がものすごいことになっていて、8月10日のベオグラードでの「リチウム採掘再開反対デモ」参加者は、2万7000人だったそうだ。RT

「ベオグラードでは現在、ベルリンが支援する、リオ・ティントのリチウム採掘プロジェクトに反対する数千人の人々が抗議活動を行っている。独裁的なヴチッチ大統領は、モスクワがクーデターの準備について警告していたと主張しており、セルビアの環境活動家らが、諜報機関から尋問を受けているとの報道がある。」

すごい数だね。

実はこれ、環境汚染のデモなのに、前回の不正選挙で抗議した活動家らも合流している。

なんか、不穏な臭いを感じる。

ロシアは「抗議デモの背後に西側諸国がいる」と言う。RFEL)デモ前日に、ヴチッチはロシアからクーデターを警告されたと言い、セルビアのヴーリン副首相(元情報機関のトップ)は、「マイダンのシナリオに沿って動いている」と主張した。RT

「セルビアのヴチッチ大統領は、公式ルートを通じてロシアからクーデターの警告を受けたと語る。水と農地を汚染し、環境破壊をもたらす、リオ・ティントのリチウム採掘プロジェクトに反対する抗議デモが予定された、その前日にこの発表が行われた。」

また、カラー革命?

その証拠も上がっている。セルビアの日刊紙「Vecernje Novosti」は、デモの前日に参加者向けに発行されたとされる「カラー革命ハンドブック」を入手したと伝えた。RT

そんなもの配ってるんだ!

やっぱ、不正選挙のデモと同じように、バックにはCIAやソロス財団がついている。セルビアからヴチッチを引きずり下ろして、アメリカの言いなり政権に代えて、ついでにセルビアのリチウムを乗っ取って、大儲けというビジョンだな。

それよりもセルビアは、環境汚染を十分に配慮しながら、今のヴチッチ政権でリチウムを採掘したほうがずっと、セルビア国民のためになると思うよ。


ウィリアム・バーンズCIA長官のセルビア訪問


CIAと言えば、驚くべきニュースが入ってきた。8月24日、ウィリアム・バーンズCIA長官が秘かにセルビアを訪問したそうだ。

ウィリアム・バーンズCIA長官
Wikimedia_Commons[Public Domain]

CIAがセルビアに?!

ヴチッチは、「CIA長官との会談の話題は、すべてこの国と地域の将来にとって重要なものだった」とお茶を濁しているが、何が語られたのやら?(kosovo ONLINE

「こないだのデモで、CIAの目論んだクーデターは失敗したが、必ずやカラー革命であんたを倒してやる」って、宣戦布告に来たとか?

アホ! そんなこと、わざわざ言いに来るか? バーンズ長官は、セルビアに来る前にボスニア・ヘルツェゴビナのサラエボを訪問し、ボスニアの外務大臣と会い、スルプスカ共和国のドディク大統領とも会って、スルプスカ共和国の分離独立主義者について話し合ったと言う。N1


スルプスカ共和国というのは、ボスニア・ヘルツェゴビナのセルビア人で構成される国だったね。

ボスニアからの独立を目指すドディク大統領は、プーチンに会いに行くほどの親ロシア派だが、バーンズ長官が来た後、スルプスカの分離独立に関する以前の発言を、大幅に撤回したと言う。N1

へええ、何を言われたんだろう?

脅されたのか、取引きをしたのか? バーンズ長官はボスニアの後、セルビアに来て、その後ブルガリア、北マケドニア、そして最後に、コソボにコッソリ立ち寄っている。

「CIA長官、バルカン地域への抜き打ち訪問の一環としてコソボに立ち寄る。」

なんで、コソボに行ったんだろう?

元コソボ治安部隊司令官のカストラティ氏は言う。「紛争の最大のリスクはスルプスカ共和国を経由する、ボスニアとコソボ北部だ。」RFEL


地図を見ると、スルプスカ共和国はセルビアに接していて、セルビア経由でコソボ・セルビア人が多く住む北コソボとつながれそうだね。

カストラティ氏はこう考える。バーンズの訪問は、スルプスカ共和国、コソボの北部地域が、セルビアという衛星を通じて、潜在的な紛争の危険にさらされていることを勧告をするためだと。RFEL

セルビアは、スルプスカのセルビア人と連帯して、北コソボのセルビア人を助けようとしてるのかな?

そう言えば、セルビアは最近、軍隊を強化しているようだ。CIA長官がセルビアに来た8月24日、ヴチッチは憲兵特殊部隊「コブラ」の新施設建設の定礎式で演説した。「軍そのものについては、さらに多くの投資を行う。今後数カ月のうちに、また給料が上がるだろう。」(kosovo ONLINE

軍隊も、お給料を上げればクーデターなんて考えないしね。

もしかしてバーンズ長官は、セルビアが軍隊を動かす素振りを見せたら、NATOに再びセルビアをボコボコにさせるって脅しに来たのかな。

もう、CIAが幅を利かせる時代は終わってほしい。


Writer

ぴょんぴょんDr.

白木 るい子(ぴょんぴょん先生)

1955年、大阪生まれ。うお座。
幼少期から学生時代を東京で過ごす。1979年東京女子医大卒業。
1985年、大分県別府市に移住。
1988年、別府市で、はくちょう会クリニックを開業。
以後26年半、主に漢方診療に携わった。
2014年11月末、クリニック閉院。
現在、豊後高田市で、田舎暮らしをエンジョイしている。
体癖7-3。エニアグラム4番(芸術家)

東洋医学セミナー受講者の声

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