ぴょんぴょんの「〈トランスニストリア〉と呼ばないで(3)」 ~〈モルドバ〉と〈沿ドニエストル〉の不穏な未来

 〈モルドバ〉ってなに? からの、〈モルドバ共和国〉のかんたんな歴史を説明してきました。なぜ、〈モルドバ〉内の未承認独立国家〈沿ドニエストル共和国〉が、〈トランスニストリア〉と呼ばれるのを嫌うのか、わかる気がしてきましたよね。
 今回は、〈ソ連〉の崩壊によって誕生した〈モルドバ共和国〉と、そこから分離独立した〈沿ドニエストル共和国〉、そして現在、〈ウクライナ〉の敗北を見据えた欧米が、〈モルドバ〉と〈沿ドニエストル〉を、次の戦場として準備しているところまでお話します。
(ぴょんぴょん)
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ぴょんぴょんの「〈トランスニストリア〉と呼ばないで(3)」 ~〈モルドバ〉と〈沿ドニエストル〉の不穏な未来

おさらい


じゃあ、ここまでのおさらいだ。〈トランスニストリア〉という名前は、だれがつけたんだった?

〈ルーマニア〉。

正解! じゃ、なぜ、ドニエストル川東岸にある〈沿ドニエストル共和国〉は、〈トランスニストリア〉と呼ばれたくないのか?

〈トランスニストリア〉で、ナチスによる虐殺とかがあったから。

そうだ。〈トランスニストリア〉は〈ルーマニア〉領だったが、「〈ナチス・ドイツ〉以外のホロコースト加害国の中で、〈ルーマニア〉は第1位の犠牲者数を記録したと言われている。」(ASIA TIMAES

〈ソ連〉の支配になってからも、大変だったよね。

ああ、〈ソ連〉によって〈ルーマニア〉人が迫害されたほか、その他の民族も、ホロドモールで多くが餓死させられた。

そんな悲しい過去があったなら、〈トランスニストリア〉と呼ばれたくないね。


〈ソ連〉からの独立運動


さて、その後の〈モルダヴィアSSR〉はどうなったのか? 弾圧や飢餓によって苦しめられた民衆は、〈ソ連〉からの独立を強く求めるようになる。しだいに、地下組織、秘密結社、政党が増えていったが、それらに対する〈ソ連〉の弾圧も厳しかった。それでも、独立への動きは止められず、1989年には、「〈ソ連〉から分離して〈ルーマニア〉と一緒になる」ための、「〈モルドバ〉人民戦線」が立ち上げられた。

1989年と言えば、映像配信の「アメリカ政権の変遷」シリーズによると、〈アメリカ〉大統領がレーガンからパパ・ブッシュに代わったころだね。

ロナルド・レーガン
Wikimedia_Commons[Public Domain]

ジョージ・H・W・ブッシュ
Wikimedia_Commons[Public Domain]

ああ、〈ソ連〉崩壊のための「カラー革命」が仕込まれた時期だ。きっと、〈ソ連〉崩壊を目論むパパ・ブッシュたちは、民衆は民主主義で煽り、反対組織にはカネや武器を与えていたんだろう。

でも、〈ソ連〉を倒したのは正解だったと思うよ。あのまま〈ソ連〉が生きてたら、もっと多くの犠牲者が出たからね。ただ、今でも同じシナリオを使いまわして、自分たちの思うままにならない国家を転覆させるのは止めてほしいね。

ところで、〈ソ連〉からの独立運動が高まるにつれて、〈モルダヴィアSSR〉の多数派、〈ルーマニア〉人は〈ルーマニア〉との再統合を望んだ。一方、ドニエストル川東岸の〈ロシア〉〈ウクライナ〉系住民は、〈ルーマニア〉と心中したくない。佐藤優氏によれば、彼らはこう思ったらしい。「チャウシェスクの〈ルーマニア〉? うんと貧乏、あんなとこと一緒になりたくない。我々は〈ソ連〉に残留する。」(YouTube 16:19〜)

そうか、その頃の〈ルーマニア〉は、チャウシェスクの独裁だったんだ。

〈モルダヴィアSSR〉内の独立は、まず、テュルク人が多く住む南部から始まった。彼らは〈ガガウズ共和国〉として独立宣言(1990年8月19日)。つづいて、ドニエストル川東岸も、〈沿ドニエストル・モルダビア・ソビエト社会主義共和国〉として独立宣言(1990年9月2日)。これが今の〈沿ドニエストル共和国〉で、国旗も憲法も、現在に至るまで〈モルダヴィアSSR〉のまんまだ。

〈モルダヴィアSSR〉の国旗(Wiki
Wikimedia_Commons[Public Domain]

〈沿ドニエストル共和国〉の国旗(Wiki
Wikimedia_Commons[Public Domain]


うわあ! 国旗も憲法も〈ソ連〉時代のまんま?

ああ、「沿ドニエストルは、地球上、唯一残るソビエト共和国である。」X

たしかに風景も、〈ソ連〉のテーマパークみたいだったよね。

では、アンコールにお答えして。



〈モルドバ〉vs〈沿ドニエストル〉の〈トランスニストリア〉戦争


さてお次は、〈ルーマニア〉との再統合を望む人々だ。彼らは〈モルドバ共和国〉の独立宣言をした(1991年8月27日)が、〈ソ連〉には認められなかった。ところが、〈ソ連〉が崩壊したことで、自動的に〈モルドバ共和国〉が成立した(1991年12月26日)。そう言えば、こないだの8月27日、〈モルドバ〉の首都キシナウで、独立33周年の記念イベントが開催されたそうだ。


へえ、これが〈ウクライナ〉に次ぐ、ヨーロッパの最貧国だって? 平和そうで、幸せそうじゃん。

ちなみに、これが〈モルドバ〉の国旗。

〈モルドバ共和国〉の国旗(Wiki
Wikimedia_Commons[Public Domain]

一方、〈ルーマニア〉の国旗がこれ。

〈ルーマニア〉の国旗(Wiki
Wikimedia_Commons[Public Domain]

そっくりじゃん!

これを見ただけでも、〈モルドバ〉と〈沿ドニエストル〉が、まったく逆方向を向いてるのがわかるだろう。

真逆すぎるわ。

ところで、〈モルドバ〉が独立を喜んだのも束の間、当然ながら、半年もしないうちに〈モルドバ〉vs〈沿ドニエストル〉の〈トランスニストリア〉戦争が始まった(1992年5月2日〜7月21日)。結果は〈沿ドニエストル〉が勝利して、〈モルドバ〉からの独立を果たした(1992年7月21日)。一方、〈モルドバ〉の南、〈ガガウズ共和国〉は独立をあきらめて、〈ガガウズ自治区〉として〈モルドバ共和国〉に復帰することになった(1995年6月19日)。 (Wiki

〈トランスニストリア〉戦争って、2ヶ月ちょっとで終わったんだ。

〈ロシア〉が支援したからね。まあ、独立したと言っても、未だに未承認だが。
と言うことで、〈モルドバ〉と〈沿ドニエストル〉の歴史はここまでだ。おつかれさん。

はあ〜、長かったあ〜。

ざっくりまとめると、〈ロシア〉が〈モルダヴィア公国〉からもぎとった、現在の〈モルドバ〉地域は〈ベッサラビア〉と呼ばれていたこと。〈ルーマニア〉がドニエストル川東岸に〈トランスニストリア〉を作り、〈ソ連〉が〈ベッサラビア〉とくっつけて〈モルダヴィアSSR〉にしたこと。そこから独立した〈モルドバ共和国〉から、さらに〈沿ドニエストル共和国〉が独立したこと。

ふう〜。


今、非常に危険な状態にある〈モルドバ〉


さてと、ここで終わりとしたいところだが、実は今、〈モルドバ〉が非常に危険な状態にあるんだ。

げー、まだ続けるのー?

今年の10月20日に〈モルドバ〉の大統領選挙がある。

〈モルドバ〉のサンドゥ大統領、きれいな人だよね。


ハーバード大学ケネディ・スクール卒業、元世界銀行職員とくれば、バリバリの〈アメリカ〉の傀儡さ。

たしか、上川陽子大臣もケネディ・スクール卒業だよね。あそこは〈アメリカ〉の言いなりになる人を育てるとこなの?

上川陽子大臣
Wikimedia_Commons[Public Domain]

そんなとこだな。サンドゥは、あの「戦略国際問題研究所(CSIS)」からも「モルドバの30年の歴史の中で最も優れた指導者」と評される優等生だ。だから、こいつが再選されたらヤバイことになる。

どんなヤバいこと?

ウクライナの負けが明白になりつつある今、EUと〈アメリカ〉は、〈ロシア〉を抑え込むための、次のステージを準備している。どうもその舞台が〈モルドバ〉と〈沿ドニエストル〉らしい。

ひええ〜!

それを裏付けるかのように、つい最近〈ウクライナ〉が占領した〈ロシア〉のクルスク州に、〈アメリカ〉は大きな訓練所を開設して、何か新しい実戦訓練をやろうとしている。YouTube 3:31〜)

また、どっかと戦争するつもりかな?

ニキータ氏言わく、「もっともリスクが高いのが、〈モルドバ〉ではないか?」(YouTube

ひえ〜!?

〈モルドバ〉の前大統領、親〈ロシア〉派のドドン氏も言っている。「〈キエフ〉政権が不利な状況に置かれる現在、その状況を打開するために、誰かが〈沿ドニエストル共和国〉に第2戦線を拓く(ひらく)のでは?」YouTube

イゴル・ドドン前大統領

これは、心臓にドドン!と来るね。

これらの憶測を裏打ちするかのように、2024年6月10日付けのCSISの記事はこう書いている。「今こそ、欧米諸国が〈モルドバ〉に対して、『大胆な』行動を取るべき時である。」

「大胆な」行動?

CSISは言う。「2022年の一連の勝利の後、〈ウクライナ〉軍は今、より大きく強力な相手に対して劣勢で、装備も兵員も劣り、身動きが取れない状況に追い込まれている」「〈ウクライナ〉が戦争に負ける可能性は、〈ロシア〉の次の標的となる可能性が高い〈モルドバ〉にとって、重大な意味を持つ。」CSIS

やっぱ、〈ウクライナ〉の次は〈モルドバ〉って言ってるね。

CSISの書いた回りくどい文章を、おれ流に意訳してみると、こんなことを言っている。《同盟国のみなさん!〈モルドバ〉の軍事力は、145カ国中144位です。しかも、〈モルドバ〉は〈ウクライナ〉から飛んでくるミサイルの射程圏内にあります。一方、 〈沿ドニエストル共和国〉には、約1,500人のロシア兵が駐留しています。そこから〈ロシア〉が侵攻して来たら? そうです、〈ロシア〉が〈ウクライナ〉戦線を突破したら、〈モルドバ〉も取られてしまいます。そこで、お願いがあります。同盟国のみなさんの支援がなければ、〈ウクライナ〉最前線は崩壊し、〈ルーマニア〉も崩壊するでしょう。そうなったら、NATOやEUの国境に〈ロシア〉軍が配置されてしまう、てなことになったら、〈アメリカ〉や同盟国にとってヤバいですよね。》(CSIS

これ、脅しとおカネの請求だね。もしかしたら、日本にも言って来た? また、ハイハイって出したのかなあ?

ATMだからしゃあねえよ。〈アメリカ〉だって、 2022年2月のウクライナ戦争開始以来、〈モルドバ〉に7億7400万ドル(≒1097億円)も出している。さらにこの5月、〈アメリカ〉は〈モルドバ〉へ、1億3500万ドル(≒191億円)の支援を約束している。Military.com

こんなにおカネをもらってたら、〈モルドバ〉は〈アメリカ〉に何も言えないね。

ああ、「〈モルドバ〉は事実上、ブリュッセルとワシントンの植民地なのだ」「〈モルドバ〉は今、〈アメリカ〉大使によって統治されている......現段階では、彼が実質的に〈モルドバ〉を統治している。」(THE GRAYZONE

わお! まるで日本じゃん!

まったくだ。〈日本〉も舞台の候補に上がってんじゃね?

でもさっき、CSISが「〈ウクライナ〉最前線が崩壊したら、〈ルーマニア〉も崩壊する」と言ってるのは、どういう意味?

そこを説明するには、佐藤優氏の話がわかりやすい。〈モルドバ〉人は〈ルーマニア〉人で、〈モルドバ〉語と〈ルーマニア〉語はほとんど一緒。「〈ウクライナ〉戦争が〈モルドバ〉に広がると、もれなく〈ルーマニア〉が付いてきます。〈ルーマニア〉人だから。」(YouTube 25:20〜)

もれなく、ついてくる?

それを証明するかのように、現在〈モルドバ〉には〈ルーマニア〉軍と〈アメリカ〉軍が駐留している。


また1994年から、〈モルドバ〉はNATOの「平和のためのパートナーシップ」に参加していて、NATOとも演習を行っている。

「連合国領土の隅々まで守るために、まずは飛び込んでいく覚悟だ。〈フランス、ドイツ、ハンガリー、イタリア、オランダ、ルーマニア、スペイン〉の空挺部隊は、第二次世界大戦以来、ヨーロッパで最大の空挺作戦の一環として、NATOの5か国と〈モルドバ〉に降下した。」

着々と、戦争の準備を進めているね。

ニキータ氏は言う。10月20日の〈モルドバ〉大統領選挙で、「もし、サンドゥ大統領が再選されれば、戦争屋に利用される第二のキエフ政権への道を進む可能性が非常に高くなります」と。(YouTube 13:34〜)

〈ロシア〉と〈モルドバ〉の戦争になる? でも、どうやって?

〈沿ドニエストル〉に、ちょっとちょっかいを出せば、〈ロシア〉軍が飛んでくる。
そこで、〈ロシア〉と〈モルドバ〉が交戦状態になったら、もれなく〈ルーマニア〉が付いてくる。さらに〈ルーマニア〉はNATO加盟国だから、〈ルーマニア〉が攻撃されたら、もれなくNATOが付いてくる。


わおー! 〈沿ドニエストル〉に何も起きませんように!

(このシリーズは、これでおしまい)


Writer

ぴょんぴょんDr.

白木 るい子(ぴょんぴょん先生)

1955年、大阪生まれ。うお座。
幼少期から学生時代を東京で過ごす。1979年東京女子医大卒業。
1985年、大分県別府市に移住。
1988年、別府市で、はくちょう会クリニックを開業。
以後26年半、主に漢方診療に携わった。
2014年11月末、クリニック閉院。
現在、豊後高田市で、田舎暮らしをエンジョイしている。
体癖7-3。エニアグラム4番(芸術家)

東洋医学セミナー受講者の声

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