[長周新聞] 秋田県は数%のカドミウム汚染水田を理由に放射線で遺伝子改変された「あきたこまちR」に全面切替 / 低カドミウム米を理由に今後全国で展開されていく計画

 秋田県が「あきたこまち」を「あきたこまちR」への生産全面切り替えを決定し、早ければ2025年には「あきたこまち」が消える可能性があります。時事ブログでは、あきたこまちRについて2023/9/122024/4/23の記事で取り上げました。
 今回の長周新聞の記事では、秋田県立大学名誉教授・谷口吉光先生が「あきたこまちRの全面切替は大変問題の多い政策で、撤回すべきだ」という立場で、その問題点と秋田県への要請をまとめておられました。
 秋田県は「こまちRには放射線が残っていないから安全だ」と説明していますが、こまちRの安全性の問題は「放射線が残っているかどうかではなく、放射線育種によって遺伝子が変えられてしまった(形質改変された)ことの危険性」だと指摘しています。
 また「こまちR全面切り替え」になれば、生産者があきたこまちを作付けしたくても、消費者があきたこまちを食べたいと思っても、あきたこまちの種子は提供されず、生産者の作付けの権利も消費者の食べる権利も奪われます。
 あきたこまちRはカドミウム対策でできたお米ですが、カドミウム汚染水田は秋田県内の農地の数%です。なぜ秋田県全体をこまちRに切り替えなければならないのか、カドミウム汚染土壌に対する対策はこまちR以外にもあるのに、なぜこまち Rでなければならないのかと疑問を投げかけています。
 「長年かけて築き上げた全国屈指のブランド米」あきたこまちを見捨てて、こまちRに切り替えた場合、消費者は食べてくれるだろうか、売れ残った場合の補償はどうなるのかというリスクも懸念されています。農水省はリスクについて「生産者の自己責任で、農水省は補償するつもりはない」と回答しているそうです。
 谷口先生は、秋田県の取るべき選択肢として第一に「こまちR全面切替を撤回する」ことを求めています。第二に、どうしても全面切替にこだわるなら、「大規模な消費者アンケートを実施して、消費者がこまちRを食べてくれるというデータを示す」「県民誰でも参加できる公開討論会を開催して、この問題の是非を議論してもらう」「こまちR全面切替に関する県民アンケートを実施して、県民の多数がこまちRを支持するというデータを示すこと」を要求しています。
しかしこれまでの秋田県の対応を見ていると、危険な「あきたこまちR全面切替」こそが目的で「カドミウム対策」というのは後付けの理由に思えます。長周新聞は「なお、現在は秋田県だけであるが、低カドミウム米は今後全国で展開されていく計画で、どの地域も他人事ではない。」と指摘しています。
(まのじ)

注)以下、文中の赤字・太字はシャンティ・フーラによるものです。

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「あきたこまちR」全面切替が持つ問題点 秋田県立大学名誉教授・谷口吉光
転載元)
(前略)
 秋田県は2025年から県産米の7割以上を占める「あきたこまち」の種子生産をやめ、「あきたこまちR」に全量転換することを決定・発表している。「あきたこまちR」とは、カドミウムを吸収しないよう重イオンビーム放射線を使用し遺伝子を破壊してつくられた「コシヒカリ環1号」との交配種で、カドミウムの低吸収性を持つ。国や県は「味はあきたこまちと同等」「突然変異が生じる仕組みは(自然界と)同じ」「カドミウム低減対策は必要」などとして推進する姿勢だが、遺伝子の改変とかかわった食品としての安全性の問題、流通のさいの表示問題、生産者・消費者の権利などさまざまな問題が指摘されており、これまでも多くの生産者団体や消費者団体が緊急要請に加え、集会や署名名活動をおこなっている【本紙既報】。なお、現在は秋田県だけであるが、低カドミウム米は今後全国で展開されていく計画で、どの地域も他人事ではない。今回、あきたこまちRの全面切替問題について、秋田県立大学名誉教授の谷口吉光氏に依頼し、この問題について寄稿してもらった。
(中略)

1.「あきたこまちRはあきたこまちと同じように安全だ」という県の説明には無理がある。
(中略)
 第一に、こまちRの安全性で問題になっているのは、放射線が残っているかどうかではなく、放射線育種によって遺伝子が変えられてしまった(形質改変された)ことの危険性だからです。ところが、県は遺伝子の形質改変の危険性については説明していません。これは議論をすり替えたといわれても仕方がありません。(放射線育種の安全性については、こまちRに使われた重イオンビーム照射はガンマ線照射より遺伝子を傷つける力が格段に強いという指摘があります)。

 第二の問題は、食の安全に対する消費者の不安をまったく理解していない点です。食の安全・不安についてはさまざまな立場の違いがあります。重イオンビームを放射されて形質改変されたこまちRを安全だと思う人もいれば、病気やアレルギーや環境などを考えて、こまちRを食べたくないと思う人もたくさんいます。こまちR導入に当たっては、遺伝子改変に不安を感じている人がいることを尊重するべきです。ところが県の説明は「従来の手法で開発されたお米と同様に安全なものです」と決めつけた一文だけです。まるで「この説明で納得しない人は相手にしない」と決めつけているように感じますし、とても県民の不安に寄り添う姿勢とはいえないでしょう。私には、科学を振りかざして「安全性を押しつけている」としか思えません。

 どんな技術にも100%確実はありません。農薬や食品添加物の歴史を見ると、国が「安全だ」と言って導入したあとで「やはり危険でした」として禁止するという事例がたくさんありました。多くの県民はこうした歴史を知っています。だから、県が「こまちRは安全です」といっても、「そんなことを言ったって、あとで危険でしたというのではないか」と思っています。
(中略)


2.生産者や消費者が「あきたこまち」を選ぶ権利を保障すべきである。

「こまちR全面切替」という秋田県の方針は、生産者がこれまでのあきたこまちを作付けしたいと思っても、消費者がこれまでのあきたこまちを食べたいと思っても、秋田県は種子を提供しないという意味です

 結果的に、生産者はこれまでのあきたこまちを作付ける権利、消費者はあきたこまちを食べる権利を奪われることになります。県は「自家採取は認める」と説明していますが、自家採取を続ければあきたこまちの形質を維持するのは難しいといわれています。なぜこんな乱暴なことをするのでしょうか。こまちRをどうしても導入したいのであれば、全面切替ではなく、これまでのあきたこまちの種子生産も継続する部分切替で十分ではないでしょうか。そうすれば、生産者や消費者の権利は守られます。なぜ部分切替ではダメなのでしょうか。

 部分切替を行う場合には、こまちRの米は、これまでのあきたこまちとはしっかり区分管理して流通させ、販売される時には「あきたこまちR」としっかり表記するべきです。きちんと表記しなければ、こまちRに不安を感じる消費者の選ぶ権利は保証されません。県はこまちRの安全性に自信を持っているようですから、カドミウム対策に有効なお米として堂々と販売したらいいと思います。

3.他のカドミウム米対策と比べて、こまちRがなぜ優れているのかを明らかにするべき

こまちR全面切替の理由として、県は「カドミウム対策に有効だからだ」と説明していますが、次の3点の理由で、この説明には説得力がありません

 第一に、カドミウム汚染水田が県内の農地の数%だとすると、「なぜ数%の水田のために秋田県全体をこまちRに切り替えなければならないのか」という素朴な疑問が生まれます。残り97%の水田を作付けしている生産者からすれば、「なぜ自分たちまでこまちRを作付けしなければならないのか」と感じるでしょう。3%の水田だけにこまちRを作付けして、それを区分管理して販売すれば済むのではないでしょうか

 第二に、カドミウム汚染土壌に対する対策は、こまちR以外にもあるだろうという点です。「カドミウム汚染農地の米作付けを止める」というのはひとつの選択肢でしょう。こまちRの問題を指摘している印鑰智哉さんは「カドミウム汚染対策を鉱山会社や国の責任で進めるべきだ」と訴えていますが、実現は難しくても、汚染者負担の原則から考えて筋は通っています。こうした他の対策ではなく、こまちRでなければならないかを県は説明すべきです。

 第三に、全国に目を向けると、国は国内で栽培されている主要な米の品種をすべて放射線育種米に転換しようとしていると聞きました。これはこれでとんでもない計画だと思います。もし国が本当にそんな計画を進めているなら、こまちR全面切替は秋田県だけの問題ではないことになります。なぜ、国はそんなことをしようとしているのかきちんと説明すべきですし、秋田県はなぜ全国に先駆けて放射線育種米に全面切替しようとするのかという疑問に答えるべきです。

4.こまちR全面切替には生産者にも大きなリスクがある。

 もう一つ重要な問題は、こまちRを消費者は食べてくれるのかということです。このことは生産者のリスクに関係します。こまちRに全面切り替えるという以上、県はこまちRが確実に売れるというデータを示すべきです。たとえば、大規模な消費者アンケートを実施して、「大部分の消費者がこまちRを食べたいと思っている」という結果を示すべきです。そうしたデータなしに、どうして生産者にこまちRの作付けを説得できるのでしょうか。

 全国で秋田県だけが重イオンビーム照射線育種米に切り替えるということにより、お米が売れ残るリスクがあると考えられますが、補償はどう考えているのでしょうか。

 またこまちRは、マンガン吸収能力が低下していることから、低マンガンの水田において出穂期の高温で大幅な減収となるリスクが指摘されています。このことを問うと農水省は、「マンガン肥料を施用することで回避することができます」と回答したのですが、その場合、費用は誰が負担するのでしょうか。この減収リスクにも誰も答えていません。

 さらに食味の問題があります。これまで県や国はこまちRと従来のあきたこまちの味は同等だとしてきました。ところが、大潟村では実際に生産者が試食したところ食べた全員が「味が違う」と感じたといいます。どのお米も全国で多様な炊き方をされていますので、炊飯米で「味が違う」と感じる消費者が出てくる可能性はおおいにあります。

 味が変われば選ばれなくなる可能性もあるのですが、県や国は「味は変わらない」というだけでこの食味リスクに対しても誠実に向きあっていません。

 秋田県の決定によって生産者がリスクを負わなければならなくなりますし、これは死活問題です。これらの原因は農研機構が開発し、農水省が推進した「コシヒカリ環1号」にあると考えられますが、どのように責任をとるつもりでしょうか。こうした生産者のリスクについては9月の院内集会において農水省に質問しましたが、リスクについては「生産者の自己責任で、農水省は補償するつもりはない」との回答でした

 消費者がこまちRを食べない(買わない)なら、生産者は栽培しないでしょう。2年後、売れないこまちRの種籾が山のように積まれ、農家は自家採取するか、県外で生産されたあきたこまちの種を購入して栽培するという漫画のような光景が目に浮かびます。このような事態にならないという根拠を県は示すべきです。

5.こまちR全面切替はあきたこまちのブランドを失墜させる可能性がある。

 私の個人的意見を言えば、ほとんどの人はこまちRを食べないと思います。なぜなら、いくらカドミ対策だと言っても、いくら安全だと言っても、「今までおいしく食べてきたあきたこまちがあるのに、なぜこまちRを食べなければならないのか」という疑問に答えられないからです。逆にいえば、これまでのあきたこまちを食べている全国の人たちはあきたこまちをおいしくていい米だと思っているのです。それなのに県は「こまちRはあきたこまちと同じように安全だ」という一言で、あきたこまちを見捨てようとしています。これまで私は「こまちRに全面切替する県には優しさがない」「愛がない」という意見を何度か聞きましたが、それは当然だと思います。「あきたこまちを大事に育てて全国屈指のブランド米にしたのは秋田県なのに、なぜ県はあきたこまちを見捨てるのか」という消費者の素朴な声に県はどう答えるのでしょうか。

 いうまでもなく、あきたこまちは長年かけて築き上げた全国屈指のブランド米です。しかし、こまちR全面切替は、県が公式にあきたこまちを見捨てたことを意味します。この農業県秋田のイメージを失墜させ、秋田のお米の販売に計り知れない悪影響を与えると思います

なぜそんなリスクを冒しても、こまちR全面切替に固執するのか。カドミ対策というのであれば、得るものに対して失うものがあまりにも大きな「賭け」のように私には思えます。

6.以上の理由で、こまちR全面切替に反対します。

 以上の理由から、私はこまちR全面切替に反対します。県は次のような選択をとるべきだと思います。

 第一の選択肢は、「こまちR全面切替を撤回する」ことです。すでにこの論争は全国の関係者が注目しています。全面切替に執着して、議論が長引けば長引くほど、あきたこまちや農業県秋田のブランドの傷が大きくなるでしょう。これ以上傷が大きくなることを避けて、潔く撤回するのが賢明だと思います。

 第二に、どうしても全面切替にこだわるなら、三つの条件をつけたいと思います。
 一つめは、4で述べたように大規模な消費者アンケートを実施して、消費者がこまちRを食べてくれるというデータを示すことです。
 二つめは県民誰でも参加できる公開討論会を開催して、この問題の是非を議論してもらうことです。(討論会のパネラーに推進派だけを選ぶことがないようにして下さい)。
 三つめに、こまちR全面切替に関する県民アンケートを実施して、県民の多数がこまちRを支持するというデータを示すことです。県があくまでも全面切替をするというのであれば、この条件をクリアしたうえで検討を続けたらいいと思います。

 最後に、私が秋田県立大学の教員であるので県の政策を批判して大丈夫なのかとよく聞かれます。私は、むしろこの政策は県がまったく間違っていると思っています。だから止めなければなりません。私が秋田県立大の教員だからこそ止めなければならないと思っています。
(以下略)

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