(前略)
秋田県は2025年から県産米の7割以上を占める「あきたこまち」の種子生産をやめ、「あきたこまちR」に全量転換することを決定・発表している。「あきたこまちR」とは、カドミウムを吸収しないよう重イオンビーム放射線を使用し遺伝子を破壊してつくられた「コシヒカリ環1号」との交配種で、カドミウムの低吸収性を持つ。国や県は「味はあきたこまちと同等」「突然変異が生じる仕組みは(自然界と)同じ」「カドミウム低減対策は必要」などとして推進する姿勢だが、遺伝子の改変とかかわった食品としての安全性の問題、流通のさいの表示問題、生産者・消費者の権利などさまざまな問題が指摘されており、これまでも多くの生産者団体や消費者団体が緊急要請に加え、集会や署名名活動をおこなっている【本紙既報】。なお、現在は秋田県だけであるが、低カドミウム米は今後全国で展開されていく計画で、どの地域も他人事ではない。今回、あきたこまちRの全面切替問題について、秋田県立大学名誉教授の谷口吉光氏に依頼し、この問題について寄稿してもらった。
(中略)
1.「あきたこまちRはあきたこまちと同じように安全だ」という県の説明には無理がある。
(中略)
第一に、こまちRの安全性で問題になっているのは、放射線が残っているかどうかではなく、放射線育種によって遺伝子が変えられてしまった(形質改変された)ことの危険性だからです。ところが、県は遺伝子の形質改変の危険性については説明していません。これは議論をすり替えたといわれても仕方がありません。(
放射線育種の安全性については、こまちRに使われた重イオンビーム照射はガンマ線照射より遺伝子を傷つける力が格段に強いという指摘があります)。
第二の問題は、
食の安全に対する消費者の不安をまったく理解していない点です。食の安全・不安についてはさまざまな立場の違いがあります。重イオンビームを放射されて形質改変されたこまちRを安全だと思う人もいれば、病気やアレルギーや環境などを考えて、こまちRを食べたくないと思う人もたくさんいます。
こまちR導入に当たっては、遺伝子改変に不安を感じている人がいることを尊重するべきです。ところが県の説明は「従来の手法で開発されたお米と同様に安全なものです」と決めつけた一文だけです。まるで「この説明で納得しない人は相手にしない」と決めつけているように感じますし、とても県民の不安に寄り添う姿勢とはいえないでしょう。私には、科学を振りかざして「安全性を押しつけている」としか思えません。
どんな技術にも100%確実はありません。農薬や食品添加物の歴史を見ると、国が「安全だ」と言って導入したあとで「やはり危険でした」として禁止するという事例がたくさんありました。多くの県民はこうした歴史を知っています。だから、県が「こまちRは安全です」といっても、「そんなことを言ったって、あとで危険でしたというのではないか」と思っています。
(中略)
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