ぴょんぴょんの「ポーランド大統領選挙」 ~次期大統領、歴史学者のナヴロツキ氏とは?

 6月1日のポーランド大統領選の決選投票で、ポーランド・ファースト、移民反対、LGBTQ反対、親キリスト教、親NATO、トランプ支持を掲げる、歴史学者カロル・ナヴロツキ氏が、親EUのワルシャワ市長ラファウ・チャスコフスキー氏に、僅差で勝利しました。ナヴロツキ氏は、2025年8月6日付けで、ポーランド大統領に就任する予定です。
 ポーランドでは首相が実権を握っていますが、大統領にも軍統帥権、法案拒否権、赦免権などの権限があります。親EUでLGBTQに寛容な現職トゥスク首相も、思い通りの改革はさせてもらえないでしょう。
 実はナヴロツキ氏、かつてソ連がポーランドに建てた、468基の赤軍記念碑を破壊したことで、ロシアから指名手配されています。いったい、どんな人なのでしょうか?
(ぴょんぴょん)
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ぴょんぴょんの「ポーランド大統領選挙」 ~次期大統領、歴史学者のナヴロツキ氏とは?

決選投票の投票率は72.8%だった


6月1日に、ポーランド大統領選の決選投票があった。

なんか今年は、大統領選挙が多いね。

第1回目の投票は5月18日で、最大政党で現職トゥスク首相が代表を務める、「市民プラットホーム(PO)」所属のチャスコフスキー(53歳)がトップに立った。

チャスコフスキー
Author:Adrian Tync[CC BY-SA]

チャイコフスキーみたいな名前だ。

2位は、第1野党の「法と正義(PiS)」の支持を受けた、無所属のナヴロツキ(42歳)。1回目の得票率は、チャスコフスキーが31.36%、ナヴロツキは29.54%だった・・が。

まさか、ルーマニアみたいに逆転したとか?

実は、そうなのよ。6月1日の決選投票の得票率は、ナヴロツキ50.9%、チャスコフスキー49.1%で、ナヴロツキ氏の逆転勝利となった。Wikipedia

まるで、ルーマニアの大統領選挙みたい。それも、僅差での勝利? またまた不正選挙だったとか?

いや、こっちは不正じゃなさそうだ。なんと、決選投票の投票率は72.8%。共産主義崩壊以降のポーランド大統領選の決選投票で最高、というほど注目の選挙だったが、国民は選挙結果について騒いでいないようだ。YAHOO!ニュース

72.8%?! どうやったら、そんな投票率になれるの?

それだけ、ポーランド国民が政治に関心を持っているってことだな。


次期大統領ナヴロツキの人物像


で、次期大統領になるナヴロツキ氏ってどんな人?

Wikimedia_Commons[Public Domain]

ついでに、家族の写真がこれ。

〈家族との最後の時間!投票締め切りまであと7時間!〉

奥さん、きれい。息子はイケメン。

自撮りしているダニエルは、奥さんの連れ子だ。ここに写っていないが、小さい女の子もいる。

仲良さそうなご家族だね。

ナヴロツキは歴史研究家、アマチュア・ボクサー、サッカー選手。胸にはチェルシーFCとレヒア・グダニスクのタトゥーがあるとか。(Wikipedia

サッカーチームのタトゥー入り大統領?

ナヴロツキは、自身を「広義の愛国者の代表」「ポーランド人同士の戦争を終わらせる市民候補」と考えている。Wikipedia)また、「これまで、どの政党にも所属したことはない」がウリらしい。「法と正義(PiS)」党が、彼を「非公式候補」として擁立するまで、ほとんど無名の存在だった。(YAHOO!ニュース

へえ、そんなんで、よく当選できたね。対立候補のチャスコフスキー氏は、ワルシャワ市長だよね。なんで、どしろうとのナヴロツキ氏が勝てたんだろう?

目指すところの違いかな? チャスコフスキーは、ウクライナのNATO加盟とEU加盟を支持している。ナヴロツキは、ウクライナのNATO加盟に反対。その理由は、ポーランドをロシアとの戦争に巻き込むおそれがあるから。RT

ナヴロツキ氏に一票!

チャスコフスキーは、ポーランドの欧州問題担当相を務めていたから、ポーランドがEUで影響力を発揮することを目指す。一方、ナヴロツキは、「ポーランドの憲法がEU法より優先」のポーランド・ファーストで、「欧州難民協定から脱退するべき」と主張し、EUの「気候変動政策」にも批判的な立場を取っている。YAHOO!ニュース)(YAHOO!ニュース

またまた、ナヴロツキ氏に一票!

また、チャスコフスキーが、厳格な人工妊娠中絶法を緩和し、LGBTQに寛容になろうとしている一方、ナヴロツキは中絶法の緩和に反対、同性婚の合法化に反対、同性関係にある人々への法的権利の拡大に反対という、カトリックの性倫理を重視している。Wikipedia

ポーランドの中絶法がどのくらい厳格かは知らないけど、ナヴロツキ氏、まともだね。

まとめると、ナヴロツキは「ポーランド第一、EUに懐疑的、カトリック支持」となる。



トランプを支持するナヴロツキ


でもさ、ナヴロツキ氏は、移民とかLGBTQに反対で、EUと逆行してるでしょ。EUとしてはチャスコフスキー氏の方が良かったよね? なのに、ナヴロツキ氏が大統領になった。ルーマニアのジョルジェスク氏も、同じ路線のシミオン氏も、国民の支持は圧倒的だったけど、負けた。どこが違うのかな?

アメリカだよ。5月1日の大統領選前に、ナヴロツキはトランプに会いに行っている。

〈@POTUSとの素晴らしい会談。ポーランドと米国の関係の明るい未来について話し合えたことを光栄に思う。〉

ナヴロツキ氏、トランプ支持なんだ!

ナヴロツキは「トランプ大統領と協力して、ポーランドの安全保障の不安を解決する」という公約を掲げていた。この会談で、トランプ本人から「あなたが勝つはずだ」と言われ、大喜びした模様。(YAHOO!ニュース

ということは、ルーマニアのジョルジェスク氏も、アメリカを支持していれば大統領になれた?

ジョルジェスク氏
flickr[Public Domain]

アホ! ジョルジェスクは、ルーマニアのアメリカ軍基地を拡大して、NATO基地にする計画に反対していたんだ。アメリカを支持するワケねえだろ!

あ、そっか。

おまけに、ジョルジェスクは親ロシアだし。ダブルで無理無理。

じゃあ、ナヴロツキ氏は親ロシアじゃないんだね。


ロシアから指名手配されているナヴロツキ


ナヴロツキは、親ロシアどころか、2024年2月にロシアから指名手配されている。

ええっ?! なにをしたの?

ナヴロツキが「国家記憶研究所」所長を務めていた時代に、ソ連の戦争記念碑を大量に破壊したらしい。

「国家記憶研究所」ってなに?

「国家記憶研究所」、別名「ポーランド民族に対する犯罪の追及委員会(IPN)」。ソ連崩壊後の2000年に活動を開始した、国営の研究機関。ナチス占領時代および社会主義時代に、ポーランドで犯された犯罪の調査を担当している。(RT

そう言えば、ナヴロツキ氏は歴史学者だった。

1944年〜1945年、ソ連はナチスからポーランドを解放する作戦で、60万人以上の兵士を失った。戦後ソ連は、彼らを称えるために、ポーランド全土に561基の赤軍記念碑を建設した。が、そのうちの468基が、2023年末までにポーランド当局によって撤去された。その陣頭指揮をとったのが、当時「国家記憶研究所」所長だったナヴロツキだと言う。RT


ほとんど、壊しちゃったんだ。でも、それって犯罪? ポーランド国民の自由だと思うけど?

ロシアからすると、ナチスからポーランドを開放してやったのはソ連だと言うのに、「恩を仇で返すか?」ってとこかな。それは、ポーランドの歴史をちょこっとでも覗けば、ナヴロツキの気持ちもよくわかる。なんせ、ソ連はポーランドにひどかった。ポーランドをナチスとソ連で山分けしようと言ったのは、ヒットラーとスターリンだからな。


ああ、その中の秘密議定書部分。「第2条:ポーランド国に属する地域における領土的及び政治的な再編の場合、ドイツとソビエト連邦の勢力範囲はナレフ川、ヴィスワ川、サン川の線が大体の境界となる。」

「ポーランドの地図。青い点線が1939年のポーランド国境。
赤い線が独ソ間で合意された分割線」
Author:Lonio17[CC BY-SA]

知らないうちに自分の国が、ナチスと共産主義に分割されて、攻めこまれて、住人は追い出されて、収容所に送られて、殺されるか強制労働なんて、悪夢みたいな話だよ。

自国民がこんな目に合わされたら? ポーランド民族に対する犯罪の追及を行う「国家記憶研究所」の所長ナヴロツキが、ソ連軍の記念碑を壊す気持ちもよくわかる。

それに対して、今のロシアが怒る理由もないよね。だって、もうソ連じゃないんだもん。

だから、ナヴロツキはロシアをこう言う。「ロシアは白の恐怖、赤の恐怖、現代の恐怖のいずれにおいても帝国主義的である。」(Wikipedia

ソ連アレルギーからロシアアレルギーになるのも、理解できる。けど、現在のロシアを正視してほしいな。

ただ、ロシアに言わせると、記念碑の破壊は「ナチス協力者を正当化する道を開いている」ことになると。RT

Wikipedia[Public Domain]

なるほど、反共産主義は、ひとつ間違うとナチスになる。こないだの映像配信で教わったね。反共、勝共って、共産主義を悪者にして団結させるのは、ナチスやCIAの手口だって。ナヴロツキ氏、アメリカに近寄りすぎて、CIAからお誘いが来なければいいけど。

ポーランド人のナヴロツキが、どんな思いで大統領になったのか、どんな思いでアメリカやロシアと対峙していくのか? こう考えると、ポーランドの歴史を知りたくなってくる。

ポーランドの歴史? 沼が深そう。



Writer

ぴょんぴょんDr.

ぴょんぴょん

1955年、大阪生まれ。うお座。
幼少期から学生時代を東京で過ごす。1979年東京女子医大卒業。
1985年、大分県別府市に移住。
1988年、別府市で、はくちょう会クリニックを開業。
以後26年半、主に漢方診療に携わった。
(クリニックは2014年11月末に閉院)
体癖7-3。エニアグラム4番(芸術家)


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