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ユダヤ問題のポイント(近・現代編) ― 外伝16 ― 「聖杯」を所持する者
テンプル騎士団逮捕嫌疑の是非 ~善悪相対的二元論見地の危険
テンプル騎士団を処刑するフィリップ4世
Wikimedia Commons [Public Domain]
1307年10月13日金曜日、突如フランス全土で行われたテンプル騎士団の逮捕、命じた主体はフランス王フィリップ4世とされ、テンプル騎士団への嫌疑はキリスト教異端および悪魔崇拝でした。
現在において、このテンプル騎士団逮捕は、フランス王フィリップ4世によって被せられた一方的な「濡れ衣」だとの評価がほとんどの多数となっています。
莫大な財力と強大な権力を誇っていたテンプル騎士団から借金を背負っていたフィリップ4世が、“嫉妬”と“強欲”からテンプル騎士団の財力と権力を強奪するためにありもしない「濡れ衣」を被せ、拷問によって虚偽事実を「でっち上げた」との評価です。
この文脈ならば、「濡れ衣」を被せられた側のテンプル騎士団は、一方的に“善”で悲劇の存在、逆にフィリップ4世は一方的に“悪”ということになります。
しかし、実際には、テンプル騎士団の宗教はグノーシスであり、カバラなのであって、嫌疑の“異端”は当たっています。ただし“異端”が“悪”なのかと言えば全くそうではないでしょう。
カソリック教会の立場からすれば「異端=悪」ですが、そもそも実のところ、原初のイエス・キリストの教えからは、カソリック教会の教義の方が“異端”なのであって、テンプル騎士団の宗教の方がイエス・キリストの教えを引き継いだものなのです。
カソリック教会は、自分たちの絶対的権威と命脈を守るため、その脅威となる存在を「異端=悪」としていたのに過ぎないのです。普遍的な意味で「異端=悪」ではないのです。
問題は悪魔崇拝の方です。こちらの方は異端とは質が全く異なり、明らかな悪です。そしてテンプル騎士団員で明らかに悪魔崇拝であったであろうコロンブスを見れば分かるように、テンプル騎士団が相当程度、悪魔崇拝に染まっていたのも間違いない事実でしょう。
フリーメーソンの儀式でのバフォメット
Wikimedia Commons [Public Domain]
つまり、テンプル騎士団への嫌疑は「濡れ衣」でも何でもない事実なのであって、テンプル騎士団は一方的に“善”で、フィリップ4世が一方的に“悪”との文脈は事実と反しているのです。
それでは逆にフィリップ4世が“善”で“白”だったか?というと、これは全く別になります。事実検証なしでの判断はできないのです。
この世界は、片一方が悪ならばもう一方は善であるとの見方でほとんど事柄が判断されています。しかし、このような悪対善などの単純で相対的二元論では、この世界は成り立ってはいないのです。この世界に跋扈しています二元論的な見方は現実を見誤らせまるのです。
留意すべきは、事実と反するにも関わらず、テンプル騎士団が“善”且つ悲劇のヒーロー的物語の文脈で評価される点です。これは、テンプル騎士団の末裔たちが“神話”を創設して世界に広められる地位に現在まであり続けてきたことを意味するでしょう。支配される側ではこうはいきません。
十字軍指導者ゴドフロワ・ド・ブイヨン ~エルサレムに派遣された9名の騎士
テンプル騎士団の創設は、1096年開始された第1回十字軍遠征とパレスチナのエルサレム陥落と切り離せません。
十字軍指導者にして1099年にエルサレムを陥落させたのがゴドフロワ・ド・ブイヨンです。ブイヨンは十字軍のエルサレム攻略によって、新たに創設されたエルサレム王国の実質的な王になります。
1100年にブイヨンは死去し、ブイヨンの甥のボードワン2世が跡を取り、エルサレム王となっていた1118年頃に、フランスからエルサレムにやってきていたユーグ・ド・パイヤンを長とする9名の騎士がテンプル騎士団に認定されます。
ユーグ・ド・パイヤンたちはエルサレム到着早々に、ヘロデ王神殿跡に建てられた王宮の脇の建物を宿舎として与えられ、活動を始めています。彼らは9年以上その神殿跡地に留まり、メンバーも創設時の9名のままでした。
テンプル騎士団創設の表向きの目的は「聖地エルサレムへの巡礼者の守護」です。しかしたった9名の騎士がその目的の活動を行えるはずがないことは自明です。彼らの活動目的は巡礼者の保護などとは全く異なっていました。
神殿跡地に留まり続けた9名の騎士が行っていたのは、神殿跡の地下の発掘作業です。神殿地下に隠された秘宝を求めての活動だったのです。ユーグ・ド・パイヤンら9名の創設メンバーは、ほぼ全てがフランスのシャンパーニュ伯の家臣でした。シャンパーニュ伯自身が事前に1104年から1108年までの間エルサレムに逗留もしています。この時のエルサレム王はゴドフロワ・ド・ブイヨンの弟ボードワン1世です。
もともとがゴドフロワ・ド・ブイヨンとシャンパーニュ伯たちは非常に親しい仲間内だったようです。そして十字軍遠征に連動しゴドフロワ・ド・ブイヨンは1090年代に「シオン修道会」を創設させていたようなのです。
つまり、シオン修道会の創設、十字軍遠征とエルサレム攻略、テンプル騎士団の創設、この一連の動きは一かたまりのものと見るのが自然です。
特にシオン修道会とテンプル騎士団の創設は一体のもので、その目的は「聖杯の守護」です。そして、実はゴドフロワ・ド・ブイヨンの家系が「聖杯家」の一つだったのです。
彼は家系に代々口伝で伝えられてきたであろう「聖杯」の秘密を守るためにシオン修道会を創設し、ブイヨンの友人でその秘密を共有していたシャンパーニュ伯も、そのためにテンプル騎士団の創設に動いたと見るべきでしょう。
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「聖杯」の意味 ~キリストの器
ブイヨンによって設立されたシオン修道会と同様に、テンプル騎士団設立の目的は「聖杯」の守護になるのですが、そうなると「聖杯」とは何か?でしょう。「聖杯」の解釈とは一般には以下のようになるでしょう。
① 磔刑にあったイエス・キリストの血(遺物)を受けた物質としての杯
② イエス・キリストの血流(子だね)を身に受けた女性
③ イエス・キリストの血脈子孫
要するに、一般ではイエス・キリストの遺物である血、血脈を受けた器が「聖杯」の意味でしょう。
『ダヴィンチ・コード』では②③の解釈で話が展開し、②の女性はマグダラのマリアとしています。
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ロレンツォ ・ ヴェネツィアーノによる
マグダラのマリアの祭壇画
マグダラのマリアの祭壇画
問題は「聖杯」がなぜここまで重要視されるのか?です。それは「聖杯」がキリストを生みだす器の意味があるからで、これによって「聖杯」が至宝の秘宝となるのです。
さて、実際のところ「聖杯」②はマグダラのマリアで間違いがないのですが、その相手はイエス・キリストではなかったのです。テンプル騎士団の創設と「聖杯」についての正確な知識は、映像配信「宗教学講座」第219回と第220回をご視聴頂くとして、ここではマグダラのマリアの相手は単に「キリスト」としておきます。
キリストとは一口で結べば「ユダヤ王」です。以上のことをふまえて「聖杯」を定義し直すと以下のようになると思えます。
① キリストの遺物(遺体の一部)を載せた物質としての杯
② ユダヤ王の血流をその身に受けたマグダラのマリア(その遺体)
③ キリスト(ユダヤ王)を生みだす器としての知識文献
④ ユダヤ王とマグダラのマリアの血脈子孫
ユダヤ王のルーツを辿るとダビデ王になり、マグダラを通したその血流子孫が「聖杯家」で、④の聖杯になります。ただし、マグダラはイエスの磔刑後にフランスに逃れ、幾人もの子孫があるので「聖杯家」は多数存在するはずです。そこで、その中でも②を所有する「聖杯家」が正統子孫を主張出来るのかも知れません。
マグダラのマリアのマルセイユへの航海
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さて、定義し直した①②③の「聖杯」は、日本で言う三種の神器に相当すると見たら分かりやすいかも知れません。日本では三種の神器を受け継ぎ所持する者こそが天皇の正統継承者になるでしょう。
日本の三種の神器と同様に、定義し直した①②③の「聖杯」を全てそろえて手に入れた者こそがダビデ王の正統継承者で、ユダヤ王となる正式権限を有することになる、この見解は成立するでしょう。
しかもそのユダヤ王とは、ユダヤ民族の王だけではなく、エルサレムを中心に地上世界全体を統治する「世界王」、こうなれば「聖杯」は「世界王権」を意味します。まさに無二の至宝中の至宝です。
逆に、その秘密の至宝が他者の手に渡れば大変なことになります。こうした秘密が口伝で聖杯家には伝えられていたように思えます。
この「聖杯」を守護する目的で設立されたのがシオン修道会であり、テンプル騎士団だというわけです。
テンプル騎士団がエルサレムの神殿跡の地下で発掘していたのが「聖杯」①と③でしょう。この秘密を保持するため9年間も9名の設立メンバーのままだったのです。
ただし、そうやって紡ぎ出された歴史にも、その現象化した地下の部分には心棒というか核となる水脈的なものがあり、それが中心となって歴史は紡ぎ出されているでしょう。歴史を理解するには、何が核となる地下水脈かを把握するのが大事なわけです。
現代において、超大国として地上世界の歴史を動かしてきたアメリカ、その意味でアメリカの建国は現代地球史において非常に大きな出来事です。そしてアメリカの成り立ちを見ていく上でどうしても外せない、いわば核の地下水脈が、テンプル騎士団であり、フリーメーソンです。
端的には、フリーメーソンによって作りあげられた新国家、それがアメリカなのです。テンプル騎士団にフリーメーソンはそれ単独が巨大なテーマで、近現代編で詳細を見ていく余裕はないのですが、必要なので概略を追っていきます。