広島市のパン屋さん「ドリアン」から見える働き方、食べ物への愛 〜 「手抜き」は「手放すこと」かもしれない

パータ様からの情報です。
 広島市の「ドリアン」のことは、いろんな方から「美味しいパン屋さん」と耳にしていましたが、頂いた情報を読んでいるだけで幸せなパンの香りに包まれるようでした。
 オーナーの田村さんは3代目。家業を継がれた時は、日本全国どこでも見られるような40種類ものパンを揃える人気店だったそうです。10名ほどの従業員と共に夜の(!)10時から翌日夕方までのフル稼働、「パン屋さんは早起き」どころか夜通し働いておられたとは、過酷です。
 休みなく働き、お客さんは最多、売上も最高、なのにお金は残らず潤わない。ご自身もスタッフも安い給料しか出ないという納得しがたい矛盾がありました。しかも「焼きたて」が自慢なため時間が経過したパンや売れ残りは丸ごと廃棄という辛い側面もありました。
 田村さんご夫婦は、余裕のない働き方と経営面の疑問から目をそらさず、思い切って長期休業に踏切り、ヨーロッパへのパン修行を決行。振り返れば良かったと思えることも当時はずいぶん勇気が必要だったろうと想像します。
 ヨーロッパで見たパン作りはそれまでの常識を覆しました。成形なし、型抜きなし、2回発酵なしという田村さんから見ると「手抜き」そのもののパン作りだったのに、味は「比べものにならないほど美味しい」という不思議。秘訣は最高級の材料を使うことでした。
 効率的な作業で労働時間を短くし、最高の食材を使って安く売る、安くて美味しいのでお店は流行り、従業員は余暇を存分に楽しめる。しかも、売れ残りの廃棄がゼロ!「みんなが得をしている」経営です。
 この方法を日本に持ち帰った田村さんは、さらに画期的、日本国産の有機栽培小麦を使うことに決めました。小麦の選定のために生産農家さんとの交流を持ち、生産者さんや使用する小麦への愛着を持ってパン作りを始めると、「この小麦で作ったパンはを絶対に無駄にできない」と思われたそうです。
今や種子法廃止の日本、これは消費者にとってもありがたいことです。そのように大事にされてできたパンを食べたら、どんなに幸せになれるでしょう。
 今の「ドリアン」では、働く時間は一日7時間ほど、開店は週3日の午後のみ、というのんびりした働き方です。
 作る人も買う人も幸せなパン作りですが、他の職業にも可能なことかもしれません。「手抜き」に見えたことは、実は「手放すこと」だったのかもしれないと思いました。
(まのじ)

注)以下、文中の赤字・太字はシャンティ・フーラによるものです。

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配信元)





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こだわりパン屋が手抜きを始めた深い理由
引用元)

(前略)
客入りは最多になり、売り上げも最高になった。でかいエンジンでとにかくがむしゃらに働く、という感じでしたね。でも、パンを売っても売っても、お金が残らなかったんです。外からの評判はいいのに、中は潤っていない。この矛盾はちょっとおかしい、と感じるようになりました。スタッフも自分も安い給料で働き続けていた。当時、僕には若いスタッフにパン作りを教える余裕もありませんでした。彼らが店を気に入ってくれているのに甘えて、このまま1年、2年ずるずると貯金もできないのに、時間を奪い続けていていいのかと悩みました」
(中略)
2012年春、田村さんは店を休業した。店のスタッフだった妻の芙美さんとともに田村さんが向かったのは、ヨーロッパだ。

1年半かけて、フランスとオーストリアのパン屋3軒に受け入れてもらって修業をした。最後に働いたウィーンの名店「グラッガー」での日々は、田村さんのパン職人としての認識を根底から揺るがす経験になった。

(中略)
でもそのパンは段違いにおいしかった

違いは素材だった。店の代表のグラッガー氏は「使う材料には、入手できるベストのものを使っている」と語った。小麦に、ルヴァン種の天然酵母、薪の石窯も「素材の一つ」と教えられた

「こねて焼いただけでおいしいんですよ。職人たちが働く時間は短くて、客にはいい材料のものを安い価格で提供できる。だから店も流行る。グラッガーのパンでは、みんなが得をしているんです。僕も仕事が楽しいと初めて思った

(中略)
海外産の小麦を使っていると、誰が栽培したのかも分からないし、どんな苦労があるのか想像力が働かない。でも中川さんに会って話を聞き、小麦の作り手の思いを知ることができました。この小麦で作ったパンは絶対に無駄にできない、どうにかして売り切らないとだめだ、と思いましたね」

(中略)
こうして、働く時間を朝4時から11時までの7時間程度に短縮した。以前の半分だ。スタッフ10人程度で回していた店の規模も、ぐっと小さくした。店は1店舗に減らし、店を開くのは木、金、土の週3日の午後だけ。スタッフも基本的には自分と芙美さんの2人だけにした。
(以下略)

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