ぴょんぴょんの「至道無難」

最近、うちで起こったドタバタ3日間です。
(ぴょんぴょん)

注)以下、文中の赤字・太字はシャンティ・フーラによるものです。

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ぴょんぴょんの「至道無難」


§ことの始まりー1日目


くろちゃん、どうしたの、眠そうな顔して。

フワ〜ア、夕べはとうとう一睡もできなかった〜〜〜。


何かあったの?

子ネコがうちにきた。

へえ、2匹め、飼うの?

知り合いが、「子ネコが3匹生まれて困ってるから、ぜひ見てくれ」って、見せにきた。

あ〜ああ〜 子ネコは見たら瞬殺だよ。

ケージの中には、母ネコに隠れるように寄りそう、生後3ヶ月の3匹の子ネコたち。
それぞれ、毛色も違うし、性格も違う。
その中で、ずっとおとなしく寝てた、黒のオスを引き取ることにした。

名前はつけたの?

クロチビ。

だけど、よく決心したねえ、2匹め飼うのって難しいんでしょ。

2匹めなんて考えていなかった。
だが、ほんとに困ってる必死の飼い主を、少しでも助けたいと思ったんだ。

当のくろまるは、新人の受け入れにOKしたの?

それは知らねえ。
だって、母ネコが「ハア〜!!」って威嚇して、くろまるを近づけないから。
だから、みんなが帰った後、目を覚ましたクロチビが、大声でメエメエ鳴き出したときはビックリしたわ。
おとなしいから、こいつに決めたのに・・・。

クロチビは、お母さんとのお別れを知らなかったんだ。
ショック受けるの当然だよ。



気持ちよさそうに寝てたから、起こせなかった・・・。
あとで聞いたら、3匹の中でクロチビが一番、甘えん坊だったそうだ。
どうりで、あんなに 悲しく メエメエ鳴くわけだ。

それ、先に言っててほしかったね。

しかし、すべてあとのまつり。
夜通し、メエメエ鳴きながら、母親を探して回る。
抱っこしても、おもちゃで遊んでも、気が立って、落ち着いてくれねえ。
いつのまにか気がつけば、窓の外にはきれいな朝焼けが・・・。


だから、寝不足なんだね。

この年になって徹夜はきついな。
幸い、今日は予定がないから、クーラーきいた部屋で昼寝してたが。

きっと、日が経てば慣れると思うよ。

そうかなあ・・あの「メエメエ」が頭ん中響いて、脅迫されてる感じ。

もう、ノイローゼ気味?


§次の日 ー 2日め


夕べ、ふとんに入れてもメエメエ、メエメエ・・・。
あんまりうるせえから、イヤホンで音楽聞いてたら、急に音が聞こえなくなって、どうしたのかと見たら、イヤホンコードがボロボロに噛みちぎられてた。

うわあ、けっこう、やんちゃだね。

くろまるは、一度もそんなことしなかったのに・・・。

くろまるはどう?

あいつは、エサでも居場所でも、クロチビに譲って自分は退く。
だから、自分の居場所がなくなって、うろうろしてるのが哀れでなあ。
どこに行ったか探すと、2階のクソ暑い部屋のすみっこで、ゴロンと転がっていたり。
クロチビはちゃっかり、クーラーの部屋で寝てるのによ。


おやおや。

寝てるときだけ静かで、起きるとまたメエメエ。
フワア〜・・・おれ、これから昼寝すっから、また明日な。

大丈夫?


§3日め


くろちゃん、なんかやつれたね。
ちゃんと、ごはん食べてる?

腹がすいた感覚が、まったくねえ。

夕べはちゃんと寝られた?

ヤツをおれのふとんに寝かせるのは、あきらめた。
ヘンプの蚊帳に爪を立てやがったから、とうとう部屋から締め出した。

静かに寝られて、良かったね。

しかし、部屋の外ではあいかわらず、メエメエ鳴いてる。
夜中に何かドスンと音がしたが、眠いからほっといたら。

何の音?

朝起きて、恐る恐る台所に行くと、キャットフードが床に散らばっている。
見れば、フードのアルミ袋がボロボロにされてて・・・。


うわあ! やってしまったね!

なんて野蛮なヤツだ! 
くろまるは、一度もこんな乱暴なことはしなかった。
くろまるは、一度もおれの物を壊したことなかった。
くろまるは、こいつなんかより、ずっとできたネコで、いつも平和だったのに。
あれ?・・・おれ、ずーっと、あいつとくろまるを比較してる。

それ、「お兄ちゃんはいい子だったのに、あんたはもう!」に、似てるね。

子供にそれやったら、将来、大変なことになるのはよくわかる。
けど、心が勝手に比べてしまうんだ。

ちょっと、クロチビに同情する。
ぼくが小さい頃、かわいそうなことがあったのを思い出したよ。
それまで飼ってた犬がいたんだけど、新しく子犬が来たんだ。
ぼくも兄弟も、その子犬の方がかわいくて、つい今までの犬を放りっぱなしにして。
ぼくのおやじが、子犬より今までの犬をかわいがれって言ったので、遠慮してあまり近づかなくしたら、何が悪かったのか、その子犬は、数日後に死んじゃった。


そいつは、悲しい話だな。
おめえのとっつあんは、平等にと思ったんだろうが、小さいのは弱いからな。
ま、クロチビはたくましいから、ちょっとやそっとじゃ死なねえ。

でも、クロチビは、いきなり母親から引き離されて、来た家には先住者がいて。
すべてが慣れない環境の中で、メエメエ鳴いて自分に関心を集めるほかないんじゃない?

それはわかる・・が、あいつのワイルドさには、どうしてもついて行けねえ。

「愛」は条件つけずに、相手を認めることだよ。
「ありのままを認める」とも言うけど。

子育てで、「ありのままを認める」こと、「愛」することがどんなに大事かわかってる。
だが、頭でわかるのと実際は、まったく次元がちがう。
おれ、クロチビを「愛」せるのか?・・・正直、あいつを「愛」せる自信がねえ。

くろまるのときは、こういう葛藤はなかったの?

くろまるは、足にケガして歩けねえ状態だったからな。
助けたおれに感謝してるのか、一つも悪さをしたことない、できたネコだ。

ところで、野口晴哉の奥さんの昭子さんが書いた「猫」というエッセイ(月刊全生S56、8月号)がおもしろいんだ。

入れ替えたばかりの、青畳の匂いを楽しんでいた昭子さん。
その青畳に、愛猫チロ(16歳)が垂れ流しを始めて、家中がすごい臭いになっちゃった。
いくら老猫とは言え、後始末に追われ、かわいがる気にもなれない。
いったいいつまで、こんな状態が続くのか。
うんざりしていたとき、「碧眼録」の一節、「至道無難・唯嫌揀択(しどうぶなん・ゆいけんけんじゃく)」を思い出し、ハッとした。
「なんのかのと選り好みして、差別して、心に襖や戸を立てさえしなければ、至道無難、道は平らだと。
亡き夫、晴哉氏が「環境が同じでも、心が変われば、環境は自ずと変わってくる。心が先だ」と言ったとおりだと。
ネコは、弟子たちがこさえた室内トイレで用を足すようになり、垂れ流しはなくなった。
昭子さんは気づいた。
「今までなんと、せせこましい枠の中で躍起になっていたことか。こんなにも広々とした天地があるというのに・・・。」


そうか、心の中から、比較や批判の敷居を取っ払えば、あいつを許すことができる。
そうすれば、おれの心にも平安が訪れる。
・・・だが、おれには助けてくれる弟子がいねえ。

でも、クロチビにもどこか、いいとこはあるでしょ?

寝てる姿は、無害でかわいい。
しかし、目を覚ましたとたん、メエメエ・モンスターに変身!

くろちゃん、「至道無難」には、ほど遠いね。


§そして4日め


くろちゃん、目が血走ってるよ、どうしたの?

しろ、おれの我慢は限界に達した。
クロチビを、元の飼い主に返すことにした。

いったい、何が?

実は・・・くろまるが、家出した。


ええ〜〜??

サカリ以外で、無断外泊したことなんてねえのに。
ああ〜〜〜くろまるを、追い詰めて、追い出したのはおれだ〜〜!

まあまあ、落ち着いて・・くろまるも、我慢の限界だったんだね。

あいつは、いつも、一人で安らげる場所を探し回っていた。
この暑いのに、納戸のたんすの天井で、ホコリまみれになって寝ていたり。
ああ!かわいそうなことをした。

クロチビは、元気?

元気どころか、相も変わらず、メエメエうるさくワイルドに生きてるぜ。
この暑いのに、ほとんど外で遊んでいるのに、熱中症にもならねえし、

そうしないと、自分に関心をもらえない、つまり、命にかかわるからね。
あ!・・くろまる、帰ってきたんじゃない?

お、おお! くろまる、よく帰ってきた!
もう、おめえに肩身の狭い思いはさせねえ!
あいつを、追い出してやるから、安心しろ。

くろまるも、疲れた顔してるね。

あああ、くろまる、かわいそうに!
それに比べて、あいつは憎たらしいほど元気で、目はランランとヘビみてえだし、口を開ければコブラみてえだし。

・・・。

ちっとも、かわいくねえ!!
かわいがる気なんて、まったく起こらねえ!!
もう、ムリ!! 元の飼い主に電話してやる、ピピピ・・

〈ああ、こないだはどうも、くろです。
あ、いや、クロチビは元気ですからご心配なく。
ただ、くろまると相性が悪くて、同居はムリみたいです。
すみませんが、近いうちに返しに行きますので、はい、よろしく。


とうとう、返すことにしたんだね。

はあ、思ったこと言えて、スッキリしたわ。
早く、元の静かな生活に戻りたい・・。

あれ・・・クロチビも外から帰ってきたよ。

クロチビよお、おめえ、元の家に帰れるぞ、オッカサンや兄弟に会えるぞ、
良かったな
・・・。
あれ? なんでだ? おれの目から水が・・・。

あ、クロチビがテーブルの上に乗って、くろちゃんの方に顔を近づけてる。

なんだ、クロチビ、別れの挨拶か? って、おれの鼻、なめたぞ!
こんなこと、したことなかったのに。

それ、親愛の情だよ。

なんだなんだ? 気のせいか? クロチビの目が、心なしかおだやかに見える。

抱っこされたら、今度は手をなめてるよ。

これも、初めてだ。
追い返すとなって、はじめて、こいつがかわいいと思えるなんて!

良かったね、やっと心が通じ合えて。


こんなはずじゃ?
でもおれ、正直ホッとしてる、なんでだろう?

クロチビは、この家を自分の居場所に決めたみたいだよ。

ははっ、スリスリしてきて、かわいいヤツじゃねえか!
うちに来てから3日、なんとも長い3日だったが・・。

3日は、一つの区切りだね。


§1週間後


あれから元の飼い主に、クロチビをこのままうちで飼うことを伝えたら、喜んでくれた。
考えてみれば、あいつが来たおかげで、くろまるとおれの距離が前よりも縮まった。
くろまるが前よりもっと、大切に思えるようになった。

共に戦った同志だもんね。
あとは、くろまるとクロチビが、仲良くなるのを待つばかり。

クロチビの動きも、以前のような激しさはなくなり、厳しかったメエメエも甘えるようなトーンに変わって、前ほどしつこくなくなった。
そして、おれたちも3人になって、グッと安定した幸せを感じる。

それは良かった。
ようやく、くろちゃんも「至道無難」の境地に至ったみたいだね。

心の中から、すべての「襖や戸」を取っ払ってくれたのは、「愛」だ。
比較と批判の地獄の日々に比べたら、今は、なんと幸せで楽なことだろう


Writer

ぴょんぴょんDr.

白木 るい子(ぴょんぴょん先生)

1955年、大阪生まれ。うお座。
幼少期から学生時代を東京で過ごす。1979年東京女子医大卒業。
1985年、大分県別府市に移住。
1988年、別府市で、はくちょう会クリニックを開業。
以後26年半、主に漢方診療に携わった。
2014年11月末、クリニック閉院。
現在、豊後高田市で、田舎暮らしをエンジョイしている。
体癖7-3。エニアグラム4番(芸術家)

東洋医学セミナー受講者の声

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