ぴょんぴょんの「オオカミという神」

 今年の夏は、いや、今年の夏「も」草刈りをサボって、庭は見事なジャングルに。
 そして、例によってアシナガバチが巣を作り、例によってボーッと手を突っ込んだ私は、例によって敵の急襲を浴びることになります。
 夏は危険地帯がいっぱい、と言うことは裏返せば、生命のエネルギーのあふれる季節です。
 アシナガバチから、オオカミに思いを馳せました。
(ぴょんぴょん)
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ぴょんぴょんの「オオカミという神」


食物連鎖の頂点がいなくなった


おれ、スズメバチに助けられた。


ゲゲッ! スズメバチ?

うちの軒先に、5〜6匹のアシナガバチが身を寄せ合っていてな。

ええっ? 
くろちゃん、ついこないだ、アシナガバチに刺されたばかりじゃない?

ああ、だから近寄らねえようにして、観察していた。

観察? そんな、のんきなこと言わないで、早く追っ払わないとまた刺されるよ。

見つけたのは台風の前、台風が過ぎたらいなくなると思ってたら、逆に黒い塊が増えていて、ウジョウジョ20匹以上はいたなあ。

うわあ、間違いなくそこに巣を作るつもりだよ。

Author:coniferconifer[CC BY]

かと言って、スプレー殺虫剤は持ってねえし、使いたくねえし。
で、おれが考えついたのは「線香の煙」作戦。

そう言えば養蜂の人は、煙でハチを追い払ってるね。

線香を数本、束にして燃やし、外に向けて固定した所、効果抜群だった。
あっという間に、全員いなくなったぜ。

そりゃ、良かった。



いや、甘かった・・・。
翌日、全員戻ってきたので、再び線香作戦、と思ったら切らしてて。

なあんだ。

調べてみると、彼らはスズメバチに巣を追われた、落ち武者であった。

スズメバチは、アシナガバチの巣を襲うのかあ。

で、様子を見ていたが、来る日も来る日もじっと身動きせずに、身を寄せ合っている。
そんなある日、壁に貼りついてたハチたちが、一斉にいなくなったんだ。

何があったの?

1匹のスズメバチが飛んできて、アシナガバチにちょっかい出して、
1匹、1匹引きはがして、とうとう全員追っ払った。

スズメバチが、アシナガバチを追い払ってくれた?

次の日も、1週間後も、だれ一人帰って来ていない。
線香よりも、効果バツグンだ。

へえ、スズメバチも役に立つ?

それを見たら、自然界はうまくできてるな、と思った。
おれを刺したアシナガバチは、スズメバチに追い出される。
そしてスズメバチは、オニヤンマ、カマキリ、アブにやられる。


Author:アルプス岳[CC BY-SA]
オニヤンマ

食物連鎖かあ。

シカやイノシシが増えすぎたのも、食物連鎖の頂点がいなくなったからだろ?
ブルドーザーで山を切り崩して、宅地や道路やメガソーラーを作って。
彼らの住居を奪ったのは、おれたち人間だからな。

そして、エサを求めて、しかたなく里に下りて来れば駆除されて。

オオカミの出番かなと思ってる。

日本には、オオカミがいたんだよね。


オオカミという存在が生態系や地形までも改善させる


だが、明治政府がオオカミを絶滅させてしまった。
アメリカも同じ過ちを犯したが、それを塗り直そうとしている。
イエローストーン国立公園
そこに、放たれたオオカミが何をしたか、4分足らずの動画でわかる。


1995年14匹の狼が放たれた。23年後人々は目を見張った。

イエローストーン国立公園。
オオカミが駆除された結果、シカが増えすぎて植物を食べ尽し、自然が破壊されていた。
1995年、実験的に放たれた14頭のオオカミは、増えすぎたシカを熱心に狩り、シカの生息数が激減した。
そこで、人々は言った。
「オオカミを放すなんて、なんてことしてしまったんだ!」

失敗だったの?

いやいや〜 その後、想像もつかないことが起こったんだ。
シカが減ったおかげで、食いつくされた植物が復活し、荒れ地が森に蘇った。
それと同時に、鳥が帰ってきた、ビーバーも帰ってきた。
ビーバーダムのおかげで、カワウソや穴熊、カモや魚が増えた。
オオカミはコヨーテも狩ったので、ウサギやネズミが増え、それをエサにするタカやイタチ、キツネの数も増えた。

flickr[Public Domain]
ビーバーダム

へええ!

しかし、驚いたのは川の変化だ。

川まで、変わったの?

川の流れや深さが変化したおかげで、自然災害が減り、野生動物が住みやすい森になった。

オオカミのおかげで、生態系だけでなく地形まで改善されたとは。

ヒトは70年以上も、国立公園の生態系の安定化を試みてきた。
しかし実際にそれを成し遂げたのはわずか14頭のオオカミだった。」

この動画の、コメントだ。

「絶妙なバランスで自然は成り立っているんだな。」
「生きるために必要なものしか狩らない動物たちの世界は、すべてが繋がっていて意味があるんだなあ・・害なのは人間だけかあ。」
「別に狼だけじゃなくても、どんな動物が欠けてもよりよい環境にはならないと思う。」
「よく蚊、ゴキブリ、ハエ、ノミ、なんか絶滅すれば良いのにと思うが、実際に絶滅したらとんでもないことになるんだと思う。」
全てが必要な生き物で、役割がある。
「人間の思い込みが一番の害悪だったってことで。」
アイヌも、オオカミを「カムイ」として、尊敬していた。
オオカミは、お腹いっぱいになると、獲物を残して去る。
そのおかげで、狩りのできない人間や動物たちが、おこぼれに預れた。


日本のシカの被害も、大変らしいね。

林野庁の報告によれば、
「平成29年度における、シカやクマ等の野生鳥獣による森林被害面積は全国で約6千ヘクタールとなっています。このうち、シカによる・・被害が全体の約3/4を占めていて、深刻な状況となっています。」

シカは草食動物だから、穏やかで、人間に危害を及ぼさないと思ってたのに。

とんでもない。
彼らは、自分の届く範囲の植物はすべて、穀物でも野菜でも果物でも、貴重な高原植物まで、何でも食っちまうんだ。
しまいには落ち葉も、表土も食っちまって、肥沃な土地が荒れ地にされちまう。
木の皮が食われ、雄ジカに角をこすりつけられたら、木は枯れてしまう。
(鳥獣害対策.com)
山の木々が枯れ、表土がなくなったらどうなる?

Author:C.K. Tse[CC BY-SA]

大変だ! 土壌が弱くなり、土砂崩れも増えてしまう。
そろそろ、日本にもオオカミが必要なんじゃないの?


オオカミを導入する試み


実は日本にも、オオカミを再導入しようと提案する団体がある。
「日本オオカミ協会」

ほお?!

オオカミを放すだけじゃなくて、ちゃんと管理しながら繁殖を助け、生態系の回復を目指すという。

でも日本で放すのは、やっぱコワいよ。
イエローストーン国立公園の広さは、8,984 km²もあるんだよ。
広島県がすっぽり入るくらいの広さだよ。
オオカミ14頭を放したって、イエローストーンは人が住んでないからいいけど。
日本なんか狭いから、山登りしてたら簡単に、オオカミと「こんにちわ」しちゃうよ。
家畜やペットも襲われるんじゃないの?

イエローストーン国立公園

いやいや、「 日本オオカミ協会」はそんな心配はないという。
HPの Q&Aによると、2007年現在、ヨーロッパだって約17000~25000頭のオオカミが生息している。

へえ、そんなにたくさん?

でも、「根強い恐怖感をなくすのは難しい」らしい。 
「『赤ずきん』など童話のイメージが強くて、一般の人はオオカミは恐くて悪い獣と思い込んでいる。実際のオオカミは臆病で、人を襲うことはめったにありません
「獸害は日を追って深刻化しており、対策は待ったなしだ。やみくもに反対するのではなく、どうすれば安全にオオカミを導入できるかを真剣に考える時期に来ている」。
(産経WEST)

だけど実際に、ハブ退治のために導入されたマングースだって、ハブよりも、希少動物のヤンバルクイナやアマミノクロウサギを食べちゃったしね。

マングース

思ったよりも、ことは単純じゃなさそうだ。

人間の住む地域と住んじゃいけない地域を、きちんと分けるとこからやらないと。
乱開発も許す、オオカミも放すってやったら、かえって危険じゃない?

たしかに、オオカミはコワい。
だが、イノシシだってコワいんだぞ。
オオカミがイノシシに殺されることもあるそうだ。
(「ドイツに見るオオカミとの共生-(2)」6:31〜)

イノシシなんかふつうに、たくさんいるけど、草食だからね。

ここにもう一人、オオカミ導入を望む者がいる。
北海道で、当時オオカミと暮らしていた桑原康生氏だ。
アーサー・ビナードが彼を取材した番組がある。
24分の動画だが、見てて、さわやかな気分になった。


BS11 アーサー・ビナード 日本人探訪 #7 北海道 桑原康生

アーサー・ビナードかあ、久しぶりだなあ。
原発反対だったよね、彼。

気になった文句を、抜粋してみた。
桑原(6:52〜)「本来であれば、本州にもオオカミがいて、オオカミが主食とするシカがいて、森林生態系があって、それを支える栄養豊かな土壌、があった。
桑原(8:25〜)「100年前、オオカミを、ヒトの首をはねるようにポーンと取ってしまった。頭はいないけど、胴と足でなんとかして、と言ってもそうはいかない。」

確かに。
頭がないから、どっちに行ったらいいのかわかんない!

ビナード(8:43〜)「明治政府は、北海道のエゾオオカミを、ヒトや家畜を襲って、国の開拓事業を妨げる凶暴犯と決めつけ、最終的にはアメリカをまねて、毒薬、ストリキニーネで皆殺しにしてしまった。」

ストリキニーネで毒殺したのかあ!

ビナード(12:18〜)「オオカミがいた頃は、誰かが誰かを適度に間引きすることで生き延びていた。
相手を全滅させるような、ヘマをやらかす者などいなかったのだ。」

ヘマをやらかしたのは・・・無知な人間。

ビナード(13:30〜)「日本のオオカミも、めったに人間の前に姿を現すことはなかった。大昔から人々は、オオカミを、田畑をシカから守ってくれる山の神として崇拝した。」
(14:48〜)「アイヌの人々は、オオカミのことを尊敬して、獲物を分け与えてくれる神と呼んでいた。人間も野生の生態系の中で、役割を果たしていたはずだ。」


昔は、オオカミも人間も、互いを尊重して暮らしていたのに、グローバル主義の明治政府は、神であるオオカミも、誇り高きアイヌの人々も滅ぼしてしまった。

人間とオオカミ、狩りの仕方が違う。
桑原(13:52〜)「人間は、強くてりっぱなシカを獲る。オオカミは、若いヤツ、年のヤツ、リュウマチ、病気、ケガ、歯周病。要は遺伝子の中で劣ったものを獲ります。

オオカミの狩りは、シカにとっても淘汰になってるのかあ。

自然のままに放っとけ、という道もあるが、
桑原(18:11〜)「シカだって、永遠に増えるわけではなくて、環境収容力を超えれば自然に減っていきます。じゃあ、シカの数が落ち着いたから、そろそろシマフクロウの森を復元しようとしても、森はボロボロです。
じゃあ、木を植えればいい、ナラの木をと言って植えても、400年後です。
それまでシマフクロウは、どこで何してればいいか?」

シマフクロウ

そこまで行ったらもう、手遅れ・・・。

ビナード(18:33〜)「致命傷を負わせた相手を、そのまま放置するなんて、無責任極まりない。」

ほんとに、人間は無責任だよ。
何とかしなきゃいけないのは良くわかるけど、日本でオオカミ導入するのは、かなりの抵抗に合うだろうね。

「シカは、かわいい」「オオカミは、恐ろしい」という、人間の観念、偏見、先入観。
これらが、オオカミを絶滅させてしまった。
そして今また、観念、偏見、先入観が、未来への障害になっている。

人間は、固定観念に縛られて、自殺しようとしてるんじゃないの?

おれたちは、自然界をもっと「ありのままに」見ないといけないなあ。
アイヌの人々がそうしたように。

「日本オオカミ協会」の話も、一度、聞いてみたくなったよ。

【開催】東吉野村オオカミミュージアム2019

Writer

ぴょんぴょんDr.

白木 るい子(ぴょんぴょん先生)

1955年、大阪生まれ。うお座。
幼少期から学生時代を東京で過ごす。1979年東京女子医大卒業。
1985年、大分県別府市に移住。
1988年、別府市で、はくちょう会クリニックを開業。
以後26年半、主に漢方診療に携わった。
2014年11月末、クリニック閉院。
現在、豊後高田市で、田舎暮らしをエンジョイしている。
体癖7-3。エニアグラム4番(芸術家)

東洋医学セミナー受講者の声

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