[通販生活]「介護保険制度は消滅の危機にあります」介護職の報酬も利用者のサービスも削られ続け、事業者の多くは赤字、何のための保険料負担だったのか

 「*まるっと◎なんくるないさぁ~* あい∞ん在宅看取り介護」シリーズが終わりました。記事の中で、あい∞んさんが再三話されていたのは、いかに介護職の方々に助けられたかということでした。身内を精一杯在宅で介護したいと願っていても、知識や経験、個々の事情によって異なる介護現場に唯一の正解は無く、あらゆる面で支援して下さる介護職員さんの働き無くして安らかな介護は難しいと思われます。
 一方で、日本の介護保険制度の現状はどうなっているのでしょうか。雑誌「通販生活・春号」に「介護保険制度は消滅の危機にあります」という驚きの記事がありました。これは誌面記事でネット上では閲覧できないので、内容の一部を要約させていただきましたが、2000年に始まった介護保険制度が20年を過ぎた今、危機的な状況であることを服部メディカル研究所所長・服部万里子氏が解説されていました。政府は国民からの保険料はがっつり取っているのに、事業者、介護職員さんへの報酬は非常識なまでに低く抑え、現場の善意に重荷を負わせ、利用者へのサービスも削りに削ってきた経緯が報告されています。
 また別の記事では、ケアマネージャーさんの一人の利用者にかかる業務内容の凄まじさを具体的にあげ、現状では36.3人もの担当を抱える限界状態なのに、政府は赤字対策でさらに44人まで増やせとの方針を出しました。服部氏は、ケアマネージャーの増員こそが必要なのに「介護報酬が低すぎる」と根幹の指摘をされています。
 安倍前首相は「『令和の時代の社会保障=全世代型社会保障』を掲げ、(厚労相ではなく)西村経済再生担当大臣を全世代型社会保障改革担当大臣に任命した。」とあります。ここに、国の福祉を経済性で見ている政府の姿勢が見えます。高齢者福祉、児童福祉、障害者福祉、貧困支援、就労支援などあれもこれも「丸ごと化」を進めますが、どの分野も個別のきめ細やかなケアが必要な世界です。この大事な財源を削る政府に未来を託すなど不安しかありません。
(まのじ)

注)以下、文中の赤字・太字はシャンティ・フーラによるものです。

————————————————————————
20年かけて報酬やサービスの削減の方向に進んでいきました
・2000年に始まった介護保険制度は、国民から強制的に保険料を徴収し、「いつでもどこでも必要なサービスが選べて、費用の1割負担で使える。老後は安心」と期待されていた。

・ところが、事業者に支払われる「介護報酬」は低く設定されており、介護事業者の多くが赤字

・2005年の改定から、利用できるサービスを減らし、国の元々の方針である「軽度者切り捨て・重度者中心」に舵を切った
それ以降、介護のための財源を、まだ介護の必要のない人の予防などに使い始め、軽度者の切り捨てが進む。

・国は一定額で何度でも介護サービスを使えるメリットを目指すが、事業者側にとっては一定額でたくさんのサービス提供はできない。その結果、利用者が必要なケアを受けられなくなった

・2011年、住み慣れた地域で自立した生活を送るための制度「地域包括ケアシステム」が法制化された。しかしこの「本当の目的は医療費削減」

・2014年法改定では、要支援1、2の訪問介護とデイサービスが介護保険制度から切り離され、財源の限られた市区町村の総合事業に移されたため、事業者への介護報酬を低くせざるを得ず、結果的に利用者は望むだけのサービスを受けられない

・2017-18年の改定で「財政的インセンティブ」が導入され、全国の市区町村を競わせて、要介護度の重い人やサービス利用が多いところの評価を下げ、評価の高い市区町村にお金を出すシステム。「なるべく介護にかかってはいけない」という社会的圧力が高まる懸念もある。

・服部万里子氏は「20年かけて報酬やサービスを削減し続けてきた」「国は介護保険をこのまま続けるつもりはないのでは?」と警鐘。



————————————————————————
介護保険と在宅介護のゆくえ〜「担当件数増やせ」でなく、基本報酬アップを/服部万里子(連載105)
(前略)
 ケアマネジャーは在宅の利用者1人とケアマネジャー1人が契約し、ケアマネジメントを行う。業務の流れは、利用者ごとのアセスメントを行い、その人のこれまでの生活、疾病や医療、コミュニケーション、認知の状態、家族の状況や介護力、健康状態、食事や排せつ、移動、入浴などの生活機能、買い物や金銭管理、服薬、住まい、地域や近隣との関係、さらに虐待や引きこもり、医療的ケアの状況――を把握し、その現状と課題を把握する。

 次に医療機関や介護事業者と連携し、ケアプランを作成。必要なサービスを組み立て、介護サービスを事業者に依頼し、そしてサービス事業者を集めたサービス担当者会議を開催し、相互の連携をする。サービスが提供されてからも毎月、サービス利用者の家を訪問し、利用者の生活状況とサービスの適合性を把握、必要時にケアプランを見直す。入院すれば医療機関へ情報提供し、退院に向けた調整を行い、緊急対応や状態変化に対応し、家族の変化にも対応する。

ケアマネジャーの平均担当件数は常勤換算36.3人(厚生労働省介護事業経営概況調査)。この36.3人に、これだけの業務を行うのがケアマネジメントである

 ほかにも、毎月ショートステイの予約やデイサービスの調整を行う。家族と話すために、家族が仕事をしている場合は土日に訪問する。さらに、末期患者の支援などが入る。この現実を知ってほしいと思う。
 
 介護報酬が低すぎるのが赤字の原因。にもかかわらず「担当件数を増やせ」とは、ますますケアマネジャーを追い詰めることになる。利用者、介護者を支えるケアマネジャーをやりたい仕事にしていくことが介護保険の未来を拓くのである。
(以下略)



————————————————————————
介護保険と在宅介護のゆくえ 〜 生活援助や通所介護の基本報酬引下げを懸念/服部万里子(連載95)
(前略)
 訪問介護の生活援助は、今まで以上に報酬を下げたり、時間を短くするなどの単価設定が行われる可能性が高い。そもそも生活援助は介護保険から外し、民間の自費サービスやボランティアのサービスで対応していくことが国の方向性である

 介護保険のサービス利用者の58%が要介護2までであり、その人たちは独居者が多く、認知症の人も多い。これらの要介護者の在宅生活を支える生活援助や「外出、機能訓練、まともな食事、入浴、専門職の状態把握」などを担保するデイサービスが削減されると、「別居する家族が買い物や掃除のために通う」など家族の負担が増え、介護離職も増えてしまうだろう。

 家族もいなければ「服薬できない」「食事をまともに食べられない」など、孤立化する危険性が増してくる。国は有償ボランティアや通いの場に行くように誘導しているが、保険者が「介護が必要」と認定した人が、専門的ケアを受けられないことが問題である。家族による高齢者虐待は増えており、その理由のトップは「介護ストレス・介護負担」である。介護の利用者や家族も追い込むなら、何のために介護保険料を負担しているのだろうか

 さらに国は、「断らない相談体制」の構築として「相談支援の丸ごと化」を進めようとしている。児童福祉から障害者福祉、医療や介護相談、貧困者支援や就労支援などの「丸ごと化」は、ケアマネジメントではなく、総合相談体制の構築である。ケアマネジメントが果たしている、介護保険の利用者主体を目的とした選択制や、自己決定の支援を形骸化させてはならないと考える。
(以下略)




Comments are closed.