ままぴよ日記 68 「孫と対等に『自分のこと』を話してみたい」

 前回、日本の若者の自己肯定感が低いことを書きました。その若者が親になり、自分の自己肯定感を見いだせないまま子どもを同じように育ててしまう悪循環を止めるにはどうしたらいいのか?私は無力感にさいなまれながらも模索しているところです。
(かんなまま)
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子どもと共に育ち合う親子関係



子どもは、社会や親から守られ、尊重され、自由を与えられながら自ら成長していくものです。育つ環境も違うし、個性も様々ですが、自分が尊重されて満たされていれば、人との違いを認め、尊重し合える関係が築かれていくものだと思います。

できる事なら全ての子どもを、そんな環境で育ててあげたい!


でも、現実は、親との愛着形成ができないまま、あまりにも早くから親から離れて集団生活を強いられます。親も先生も余裕がなくて、子どもの気持ちを尊重できていません。満たされない悪循環が始まるのです。

どこから解決していいかもわからない問題ですが、かわいい我が子の幸せを願う親心に便乗して、支援するのが一番いいタイミングだと感じています。

そのためには、親自身が子どもの心に敏感になり、愛を持って理解するところから始めるしかありません。

でも、自分が育つ過程で、自分の本当の感情に蓋をしてしまった親にとっては簡単な事ではありません。わかっているけどできない。あるママは「褒められた事がないから、どうやって褒めていいのかわからない」と、混乱していました。

できる事なら、そんな自分の正直な感情を抱きしめながら癒し、子どもと共に育ち合う親子関係が築けたらいいなあと思っています。その過程を丸ごと支援してあげたいのです。

そして、明日の生活を心配しないで、子育てに専念できるゆとりも与えてあげたいと、切に思います。

ああ…気が遠くなりそう。でも、自分の存在を肯定できるようになったら自分が選んだパートナーとの関係も変わるでしょう。子どもとの関係、友人関係も変わります。やってみる価値はありそうです。

ママセミナーでは意識して「なぜそう思うのか?」と問い続けます。安心できる環境で自分の正直な感情に向き合うのですが、ママ達は一番関心のある事に集中できるので、見違えるように変わっていきます。でも、普通の生活では、そのことを話題にする機会すらありません。



飾らない等身大の自分を大切にする


私は、子どもの頃から自分について考える習慣を作ってあげたいと思うようになりました。これは道徳教育とは違います。先に目指す人物像や行動があって、「そういう人になりましょう」というのではありません。飾らない等身大の自分を大切にすることを伝えたいと思ったのです。

ちょうどその頃、お嫁ちゃんがお産で入院したので孫の家に泊まりに行く事になりました。私は「あなたが守る あなたの心・あなたのからだ」(童話館出版 森田ゆり 作 平野恵理子 絵)という本を持って行き、孫と読むことにしました。
この本はCAP(子どもへの暴力防止)のワークショップを絵本によって紹介したものです。

『子どもは誰でも一人ひとり特別な人間です。あなたは、だいじ。あなたはいじめられたり、馬鹿にされたり、殴られたりして辛い思いをする存在ではありません。あなたの体もあなたの気持ちも、あなた自身のものです。すべての人に元気に生きる権利があるように、あなた自身に①安心して生きる権利、②自信をもって生きる権利、③自由の意思を持って生きる権利があるのです』という事を、身近な事例を通して書かれています。

1年生のお姉ちゃんが、学校で、お友達の言葉や先生の言葉に理不尽さを感じて「行きたくない」と言っていることを知っていました。100点を取らないと居残り。宿題をして行かないと昼休み返上。クラスをまとめるために、酒鬼薔薇事件の話をして脅したり罰を与えたりする先生です。

みんなが尊重されていないので、「〇〇ちゃんだけずるい!」と、仲間外れごっこが始まりました。孫はターゲットにならないように気を使っています。心の中で「やめて!そんな事、しちゃだめだよ」と叫びますが、それを口にすると目立ちます。自分の存在を消した方が楽なのです。

まさに、安心、自信、自由がない生活です。このまま、自分の気持ちを振り返る術も知らないまま同調、忖度、長いものに巻かれる生き方になって、自分自身が置き去りになっていかないように願っています。


9歳、7歳、4歳の孫です。理解度もまちまち。でもどんなに小さくても命の本質の話は分かると思って話し始めました。

まず、「あなたは世界に1人しかいない」・・・お互いの顔をしげしげと見ました。プッと笑います。ホントだ!

「自分の気持ちを大切にしよう」というページでは色々な場面の絵を見ながら、自分の心の中で何が起こっているのか?どんな気持ち?など、素直な感情を言葉に出しました。

次は『あなたの気持ちはあなたのもの。こう感じてはいけないとか、こう感じるべきだってことはないよ。だからどんな気持ちでも大切にしよう』『それを心の中に閉じ込めないで口に出したり、顔に表して人に伝えていいんだよ』と書いてあります。

「嫌だ。違う。という気持ちも出していいよ」と言うと「そんなこと言ったらダメだよ。1人だけ違うことしたら怒られるよ」「みんなと協力しましょう。仲良くしなさいって先生が言うよ」と、孫が言いました。

「どんな気持ちを出したらダメだと思うの?」と聞いたら「嫌い」「嫌だ」「気持ち悪い」「怖い」…と、ネガティブな言葉が出てきました。「でも、その気持ちが自分の本当の気持ちだったら、まずは自分の気持ちをわかってあげないと自分が苦しいよね」と、私。

そして「どんな時が安心?」「どんな時に自信を感じる?」「どんな時自由だと思う?」と考えました。多分、今までそんなことを考えた事がなかったのでしょう。すぐには情景が浮かびません。でも、考えるうちに「自分で思った通りに言っていいんだね」と、嬉しそうでした。


続けて『安心・自信・自由をとられそうになったらどうする?どんな気持ちになる?』と、書いてあります。

また疑問です。「嫌い!と言われたり、意地悪をされたら腹が立つよね。仕返しをするのはどうなの?今度は自分がお友達の自信と安心と自由をとってしまうという事?」と。頭が混乱してきました。

強くて乱暴な子の事例も読みました。「相手をいじめないといい気分になれないのは強い子かなあ?」と更に考えます。

小さいお兄ちゃんが大きなあくびをしました。これが限界のようです。

この本には『知らない大人に声をかけられた時や、大人の人が体を触ったりした時には「嫌だ!と大声をあげて逃げていいんだよ』と、わかり易く書いてありますが、今を生きている子ども達。小さな子どもには実際の事例がないと実感できない問題です。

この続きは、日々の生活の中で話題にしていきたいと思いました。どんなに小さな子どもでも自分の話は理解できると信じます。「どう思った?なぜ?」そして、「それでいいんだよ。あなたは大切な存在。あなたは素敵な人だ」と、言い続けて行きたいのです。

その機会はすぐにやってきました。

大きな荷物が送られてきて、ママから段ボールで遊んでいいよと言われました。お姉ちゃんはその箱に入ってご機嫌です。中に入って蓋をして遊んでいたら弟がいきなり上に乗りました。痛かったので「やめて!」と言いましたが、弟は面白がってやめません。


ママと私はその時の様子を見ていませんでした。いきなり「段ボールは面白くない」と言って離れたお姉ちゃん。別の遊びをしていたのですが、弟が段ボールの中に入った途端、ドン!と上に乗りました。火が付いたように泣き出した弟。結局、弟は抱っこされ、お姉ちゃんは叱られてしまいました。

「私の方が先に弟にされたのよ!凄く痛かったんだから。それなのに私だけ叱られる。私は悪くない!」と泣き出しました。その後、ふてくされて何も言わずに別の部屋に行き、レゴで遊び始めました。

ママはそれほど強く怒ったわけではありません。お姉ちゃんの気持ちもわかっているのです。でも、それを口にしないで自分だけ気持ちを切り替えて「早く時間割しなさい!」「弟とお風呂に入りなさい!」と言いました。お姉ちゃんの怒りが反抗に変わりました。

さあ、そんな自分の感情を理解してあげるタイミングが来ました。感情にいいも悪いもない。そう思う自分を丸ごと認めたら、今度はどうしたいいのかも主体的に考えられるようになります。

私は「ばあばもレゴで遊びたい!」と言いながら部屋に入りました。レゴを一緒に組み立てながら「さっきは痛かったのね」と話しかけたら「うん」と、うなずいて孫の気が緩んだのがわかりました。


「あの時、どんな気持ちだった?」と聞くと「楽しく遊んでいたのに、いきなり乗ってきた」「すごく痛かった」「私が泣いて嫌だといったのに誰も気が付いてくれなかった」「私は弟と同じことをしただけなのに私だけが叱られる」「弟はママから抱っこされてかわいがられる」「ママは私の方を向いてくれない」「みんな私のこと嫌いなの」あらあら、噴き出しました。「私は学校でも頑張っているのに誰もわかってくれない!」という心の声も聞こえてきました。

お姉ちゃんは人の気持ちが読める賢い子です。先日のお話もお姉ちゃんの中に生きていたのだと思います。私は何も言っていないのに、スッキリした顔になって、自分から時間割を始めて「ばあば、1人で遊んでて。私、お風呂に入ってくる。お風呂から上がるまで帰っちゃだめだよ」と、言って弟が遊んでいるお風呂に入りに行きました。

ここで注意しなければいけない事は、私たち大人、特に先生は子どもが喧嘩した時やいじめられた時にも、中立の立場で話を聞こうとします。「いつ?どこで?誰が?何を言った?」など事実(?)を聞き取ります。一方的にどちらかが100%悪いという事はないし、相手の立場も考えなさいという公平で教育的な配慮だと思います。

でも、客観的な質問が始まった途端、子どもの心に「わかってもらえていない」という感情が生まれます。子どもはまだ自己中心の世界で生きています。自分の気持ちもうまく表現できません。自分が感じた世界だけしか体感できないし、その気持ちを一生懸命に伝えて 、自分の気持ちを分かってほしいと思っているだけなのです。周りがジャッジしようとするから自分を守ろうとして嘘をついたりしてしまうのです。

まず自分の気持ちを安心して出させてあげるのが先です。それが満たされて初めて、人の事にも思いが及ぶものだと思います。時間差、熟成期間が必要です。

孫も自分の気持ちを言えて、受け止めてもらったことで満たされて弟が遊んでいるお風呂に走っていくことができました。私はお風呂から上がった孫の髪をとかして、ハイタッチして帰りました。

次に会った時に「あの時は、自分から仲直り出来て偉かったよね」「なぜ、仕返ししたくなったの?」と、話の続きをしたいと思っています。


立場が変わればそれぞれの思いや事情がある


さて、ボストンに住んでいる孫から「今、Wonderという本を読んでいるよ。面白いからばあばも読んだら?」というメールが来ました。

娘の話によると、ミドルスクールの孫の英語力が飛躍的に伸びて、年齢に合った英語の本を読めるようになったそうです。課題図書の「Wonder」と「もうひとつのWonder」(R・J・パラシオ作 中井はるの訳 ほるぷ出版)を面白そうに読んでいるらしいのです。
全世界300万部の児童書『ワンダー』 ―“特別な顔”を持つ少年が教えてくれる世界の真実とは?
大人におすすめしたい児童書 「ワンダー」と「もうひとつのワンダー」

この話は映画化されています。映画は見たことがありますが本は読んだことがありませんでした。生まれつき顔に重度の障害があるオーガストという少年が主人公です。日常生活の中で起こる偏見やいじめの問題を子どもでもわかる描写で書かれているだけでなく、それを取り巻く親や級友、先生などの心模様もリアルに描かれています。偏見やいじめはいけませんという啓発本ではなく、むしろ人間の正直な心の描写がいい味を出しています。

この本の画期的なところは「もうひとつのWonder」だと思いました。それは続編ではなく、Wonderで登場した意地悪な友達、幼馴染、優しかったけど途中から去っていった友達などを主人公にして、物語の背景を描いているのです。立場が変わればそれぞれの思いや事情があるのが手に取るようにわかります。誰が正しくて誰が悪いという二元論では測れない人間模様を子どもでも感じる事ができると思います。


道徳などで「相手の立場を考えましょう」というよりも、この本を読むだけで理解が進みます。結果、意地悪な子も怖がり屋のいい子で、その教育ママも我が子の幸せを願っている親なのです。そんなものです。

小さかった頃、ばあば図書館に来て本を借りて行っていた孫と、こんな話ができる日が来るとは!久しぶりに児童書を読みましたが、孫と共通の本を読んでお話をする楽しみができました。
他に
ルール(シンシア・ロード作 おびかゆうこ訳 主婦の友社)
Wish tree(Katherine applegate)
も勧めてくれました。


Writer

かんなまま様プロフィール

かんなまま

男女女男の4人の子育てを終わり、そのうち3人が海外で暮らしている。孫は9人。
今は夫と愛犬とで静かに暮らしているが週末に孫が遊びに来る+義理母の介護の日々。
仕事は目の前の暮らし全て。でも、いつの間にか専業主婦のキャリアを活かしてベビーマッサージを教えたり、子育て支援をしたり、学校や行政の子育てや教育施策に参画するようになった。

趣味は夫曰く「備蓄とマントラ」(笑)
体癖 2-5
月のヴァータ
年を重ねて人生一巡りを過ぎてしまった。
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