ままぴよ日記 77 「たかが宿題。されど宿題」

 病院の外来で、子育ての相談にのるようになって1年。ママ達の抱えている問題や子ども達の姿がより鮮明に見えるようになってきました。

 初めての赤ちゃんを持ったママにとっては子育ての全てがわからないのは当然。でも、2人目3人目の赤ちゃんを持ったママ達はもっと深刻でした。
 ほとんどのママ達は「赤ちゃんの事は問題ありません」と言います。「問題ないのね、良かった」と、話を終わると次が見えてきません。
 「ところで、上のお子さんはいくつ?やきもち焼いたりしない?ママは大変でしょう?」と話しかけると「上の子の相談でもいいですか?」と言って話し始めてくれます。

 1人で抱え込んでいるモヤモヤ。「保育園ではお利口だけど、家に帰ってからは手が付けられない程暴れる。」「学校に行きたがらない」「動画を見てばかりいる」と、生活そのものが鮮明に浮かび上がります。

 この、逃げる事ができない生活の全てがママ1人の肩に乗っているのです。家庭で起こる問題を個人の問題として抱え込んでしまっています。

 今の子どもは家庭、保育園、学校という分断した世界で違う姿を強いられます。本来ならば、乳幼児期にしっかり甘えて自由に遊んでいれば、学童期に社会性を身に付ける準備が整っています。でも、あまりにも小さい時から大人の都合に合わせる育ちを強いられているので、やる気が失せて疲れています。

 保育園で我慢して、家でわがままを言う子。学校で頑張りすぎて不登校になる子。習い事の隙間をゲームで埋めている子。それが全部家庭の問題になっています。もっと、社会全体が子どもの育ちを大事にして、子どもを中心にした環境を作っていかなければ大変なことになります。

 今回は、孫の生活の中の宿題について書きます。
(かんなまま)
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「もう無理、疲れた」「何でこんなに宿題ばかり?」


月に2回ほど、息子の当直の日にお嫁ちゃんのお手伝いにいきます。孫達は3時頃帰ってきて、遊ぶだけ!と、言いたいところですが、その後もスケジュールがいっぱいです。

小学5年生の孫は月曜日だけ野球の練習がありません。土日は試合。野球が好きすぎて、苦になっていないのが救いですが、さすがに暑くなると、くたくたです。ママはお友達と交代で送り迎えをしていますが、お姉ちゃんや弟が遊びに夢中になっていても中断させて、もれなく赤ちゃんを含めた3人の子どもを引き連れて行かなければいけません。帰ってくるのは7時すぎ。


私が行くのは月曜日なので、野球がない日です。でも5年生になって野球のお友達が塾に行き始めたので、お兄ちゃんも行きたくなりました。お友達のお母さんが送って行く担当。お嫁ちゃんはお迎え担当です。やはり家に着くのは7時です。

その間、幼稚園の弟と2年生のお姉ちゃんは家でピアノのレッスンです。2人同時に習います。私は、ママが塾にお迎えに行っている間に、赤ちゃんのお世話をしながら夕ご飯を作ります。

お兄ちゃんが帰ってきたら夕ご飯です。学校では黙食らしいのですが、家では姦しい事!友達の話、学校の話、野球の話が飛び交います。ママは赤ちゃんの離乳食のお世話をしながら話の相手をします。

かつて、我が家もそうだったのですが、あまりの喧騒に、何を食べたのやら・・・。何を話したのやら・・・。記憶にございません。ただ、子ども達は楽しそうにしているから、良しとしましょう。一番下の赤ちゃんもすっかり仲間になっています。

夕ご飯が終わると、お風呂です。妹や弟も一緒に入ります。30分間お風呂で大はしゃぎをして一日のストレスを発散します。その間、私は夕ご飯の片付け。ママは大量の洗濯物を片付けると同時に洗濯機を回します。私が居るうちに洗濯して干した方が楽だからです。

お風呂からあがったら宿題です。いつまでもはしゃいでいると、ママから「いい加減に宿題をしなさい!寝るのが遅くなるでしょ!」と叱られます。

「ふえーい」と言いながら取り掛かりますが、計算ドリル3ページ、漢字の書き取り3ページ、音読と日記。結構な量です。特に漢字はもう覚えた漢字を繰り返し書きます。上手に書いているのに何度も消して書きなおします。「なぜ、書き直すの?」と聞くと「怒られるから」と、だんだん神経質になっていきます。消しゴムで消し続けるのでノートが黒くなっていきました。



なかなか終わりません。ママが「もういいよ、上手だよ」と言っても頑なになって涙まで出てきました。色々な事を思い出したのでしょう、「だって、先生はこんなことも、あんなことも怒るんだよ」と、子どもながらに感じた理不尽さを訴え始めました。「それは辛かったね」と子どもの訴えを聞きながらも、ママは「まだ算数していないでしょ。時間割も」と焦り始めます。睡眠時間が大事だと思っているから早く寝せたいのです。

お兄ちゃんは、もっと大変です。学校の宿題の他に塾の宿題もあります。他の日が全部野球なので、塾に行った日に宿題をしないと消化できません。学校の宿題もたくさん出ます。計算、漢字の他に自由研究があります。自分で研究課題を見つけて調べてノートに書くのです。

お兄ちゃんは自由研究が好きなので手を抜きません。図鑑や辞典で調べたり、写真を撮ったり、観察したり、絵を描いたり、色を塗ったり・・・。もう何冊も自信作ができました。自分の考えを書いた後に「先生はどう思いますか?」と書くものだから、先生も意見やコメントを書いてくれています。このやり取りはいいなあと思います。

お兄ちゃんは、担任の先生が大好きです。学校の成績だけでなく、その子らしさを尊重してくれています。自由研究ノートが先生とのおしゃべりノートのようになっているので、楽しく取り組めているのでしょう。留学経験がある先生は、その週の漢字や算数の宿題が満点の時は週末の宿題はなし。他に、家族旅行や野球の試合と言えば「楽しんでおいで」と言って免除してくれるそうです。

でも、時間が足りない。好きなことを先にするから漢字や算数ドリルが後回しです。時には机に座ったまま寝てしまうこともあります。特に炎天下で野球をした日は疲れ果てています。


さすがのお兄ちゃんも「もう無理、疲れた」「何でこんなに宿題ばかり?」「嫌だ~」と涙目です。これが毎日なのです。ママは早く寝せて、朝起きてから宿題をさせる事にしました。

野球をやりたいというお兄ちゃんの気持ちと現実の調整が難しい。ママはこれでよかったのか?悩んでいます。

ほとんどの親は、宿題を先に済ませないと寝るのが遅くなるので、子どもが家に帰るなり「宿題!」と言います。「宿題をしないとおやつなし!遊びに行ってはいけません!」と酷な取引をします。

大人で言えば、しっかり朝から夕方まで仕事をしてきた上に、休息もとらずに残業を強いられているのと同じです。もしかしたら過労死レベルかも。しかも、一番自分の成長を気にかけてくれているはずの学校の先生や親からのパワハラです。ああ・・ママの怒った顔の怖い事!!子ども達は泣きながらでも従います。

宿題をしないと、学校でも怒られます。宿題の倍返しや昼休み返上だったりします。そのために学校に行きたくない子が増えています。そして、そのストレスを忘れさせてくれるのがゲームです。簡単にゲーム依存、SNS依存になりますし、昼夜逆転します。

今、ゲーム依存の相談が増えています。外来でも一日に2~3件あります。深刻なのは、そんな生活になったら親でも止める事ができなくなるし、相談機関や医療機関が少なすぎる事です。半年待ちは当たり前の世界です。

中学生、高校生になると受験対策のために早朝の補習が7時から始まります。学校が終わって、そのまま塾に行き、家に帰るのは10時過ぎ。夕ご飯を食べてお風呂に入って11時から宿題。…こんな生活です。

大学に入学すれば遊べる!と期待する気持ちもわかります。そう思わなければ、やってられない。でも奨学金返済に追われて、アルバイトの掛け持ちなどで忙しくなります。今はコロナでそれもままならぬ。卒業したら仕事もないのにローン地獄です。

子ども達が無邪気に放課後を楽しめたのは、いつ頃までだったのでしょうか?


親もこれではおかしいと思い始めています。でも、日本の保護者は学校や先生に教育についての意見を言いません。決められた事だから口を出せないと思っているようです。

特にコロナ禍は保護者であっても学校に入れないし、授業参観、家庭訪問もないので担任の先生の顔も知りません。だから余計に言いづらいのです。でも、それって変。大事な我が子の育つ環境です。コロナ禍であっても、何らかの方法で面談できるはずです。

学校と保護者で子どもの問題を共有して改善すればいいのに、親は、宿題をしない子どもを叱咤激励します。学校に行きたくないと言い出したら、頑張っていくように説得します。保護者は仕事があるので、休まれると困るのです。子どもだけで家に居ると、動画やゲーム漬けなるのが目に見えています。

一番困っているのは子ども達です。子どもを育てる第一義的責任がある保護者も子どもの立場に立って意見を言えるシステムを作るべきです。学校に行かない子の学びの選択肢が少なすぎるのもおかしいです。


宿題って泣きながらでもしなければいけないものですか?


さて、小学2年生のお姉ちゃんのクラスの保護者会が初めてありました。他の保護者に会うのも初めてです。先生が学校の方針を説明してお開きにしようとしていた時、あるお母さんが勇気を出して発言したそうです。

「先生、宿題が多すぎて、うちの子は毎日泣きながらしています。泣きながらするから1時間も2時間もかかります。子どもは家に帰ってからしたい事があります。それをして宿題をすると寝る時間が遅くなります。したい事を我慢して宿題をさせると、やる気が出ません。

『宿題はしなくていいよ。早く寝なさい』と言っても、『しないと怒られる』と言って止めません。宿題って泣きながらでもしなければいけないものですか?泣きながらでもしなければいけない宿題なら、先生から子ども達に、なぜやりたいことを我慢して、泣きながらでもしなくてはいけないのか、子どもに理解できるように説明してください」と。

周りの親も真剣に頷いていました。それを見たお嫁ちゃんは、同じ思いの親がたくさんいる事を知りました。先生は、「わかりました。他の先生と話し合ってみます。」と言われて、次の日から宿題が半分以下になったそうです。

私も最近、教育長と会う機会があって、宿題の事を話しました。「コロナ禍で授業数が足りないから宿題で補う事になってしまいます」と言われました。「でも、授業が遅れているから夏休みを短くした学校より、通常通り休ませた学校の方が成績が良かったんですよ。やはり詰め込んでも学習効果は上がらないのがわかりました」と、言われました。


GIGAスクール構想の担当の先生に「学校でタブレットを使った授業が始まりますが、授業で電子機器を使う方が、遊びで電子機器を使う時より疲れが溜まるという調査結果が出ています。コロナ禍で、子どもが電子機器にふれる時間が長くなって、子どもの成長に悪い影響を与えたり、ゲーム障害になる子が増えています。それに関して、学校側はどう思われますか?又、対策は取られますか?GIGAスクール構想について、保護者との話し合いは持たれますか?」と聞きました。

「学校では電子機器を学習用具と捉えています。家でネット漬けになり、ゲーム障害になっている子が増えているのは知っています。学校に相談を持ち込まれたりしますが、与えたのは親です。学校の問題ではありません。相談機関や病院を紹介する事はありますが、予約がとれないのが現状です」「保護者との話し合いはコロナ禍では無理でしょう。クラス便りや校長便りに書くつもりです」とのことでした。

学校も又、大事な教育の話を親と話し合おうと思っていません。

学校は粛々と、お上からのGIGAスクール構想を勧めるだけのようです。今は先生の研修で手一杯。子ども個人の依存症などは、今の教育システムでは対応できない問題として切り離しています。困っているのは主役の子どもなのに管轄外なのでしょうか?

一方、保護者は、子どもの姿を丸ごと抱えています。家に居る子どもと学校に行っている子どもと分けて考える事はできません。でも学校は違います。学校は教育システムの中で動いています。同じ土俵に立っていないのです。

このままでは子ども達が壊れます。その分断された世界で苦しんでいる子どもの姿が痛々しい。

教育行政の先生方に想像力を働かせていただきたい。子どもを一人の生活者としてみて欲しい。そして人は学校だけで学んでいるのではない事を知ってほしい!

特に子どもには「予定のない時間・ぼーっとする時間」が必要です。そして、生涯に渡って学ぶ楽しさを教える原点が学校にあるという事を意識して、今後の教育を考えてほしいと思います。

それを考えた上で、たかが宿題、されど宿題。
まずは宿題から子どもを解放してあげたい!「放課後や夏休みは宿題なし~!!!」「週末は好きなことしていいよ!!!」「あっ、ゲームの力を借りないで遊べよ~!」


Writer

かんなまま様プロフィール

かんなまま

男女女男の4人の子育てを終わり、そのうち3人が海外で暮らしている。孫は9人。
今は夫と愛犬とで静かに暮らしているが週末に孫が遊びに来る+義理母の介護の日々。
仕事は目の前の暮らし全て。でも、いつの間にか専業主婦のキャリアを活かしてベビーマッサージを教えたり、子育て支援をしたり、学校や行政の子育てや教育施策に参画するようになった。

趣味は夫曰く「備蓄とマントラ」(笑)
体癖 2-5
月のヴァータ
年を重ねて人生一巡りを過ぎてしまった。
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