ぴょんぴょんの「挑発するコソボ(6)」 ~EUに失望して中国に近づくセルビア

コソボのクルティ首相とセルビアのヴチッチ大統領の会談が、
2月27日(第1回目)と3月18日(第2回目)に行われました。
「セルビア人自治体共同体」を作って、少数派のコソボ・セルビア人の安全を守りたいセルビア。
セルビアに独立と国連・EU加盟を認めさせたいコソボ。
両者の関係に、なにか前進はあったでしょうか?
また、両者に圧力をかけながらコントロールするEUとアメリカ。
それを静かに見守る、ロシアと中国。
大国の駆け引きも気になります。
(ぴょんぴょん)
————————————————————————
ぴょんぴょんの「挑発するコソボ(6)」 ~EUに失望して中国に近づくセルビア

2月27日のコソボ・セルビア会談はどうなった?


やれやれ、コソボ・シリーズも6回目・・。

お疲れ〜!
正直、ぼくも最初は、「コソボ? どこ? なに? 食べられるの?」
って、戸惑ったけど、今やバルカン方面に興味が出てきてね。

そいつは良かったが、「食べられるの?」は、ねえだろ。

それがね、あそこらへん、おいしいもんがいっぱいあるんだよ。


「バルカン方面に興味が出た」って、食い物のことかよ!

それはさておき、こないだ言ってた、2月27日のコソボ・セルビア会談はどうなった?

これのことか?

「ヴチッチ大統領と、クルティ首相をお迎えしました。
ベオグラード-プリシュティナ対話のハイレベル会合がブリュッセルで開催されました。
議題は、関係正常化に関するEUの提案です。
両当事者による建設的なアプローチを期待します。」(DeepL自動翻訳)


いつも思うけど、ヴチッチ、でかいね!

ああ、2メートル以上あるそうだ。
あそこら辺はでかいのが、いっぱいいるらしい。
って、それよりも、会談の結果が知りたいんだろ。
2月27日、セルビアとコソボは「関係正常化に向けた和平協定締結」に合意した。REUTERS

そら、良かったね。
で、何に合意したの?

ドイツとフランスが作った「和平協定の提案文書」だよ。
詳しくは知らねえが、「セルビアは、コソボがいかなる国際機関にも加盟することに反対しない 」という条件が入っていたらしい。Radio Free Europe

つまり、コソボの国連加盟を認めろと?
でも、ヴチッチはそれだけは許せん、って言ってたよね。

ああ、ヴチッチは「私が共和国の大統領である間は、公式、非公式を問わず、コソボを承認することも、国連加盟を承認することもない」と何度も言ってきた。(b92

にもかかわらず、合意したってことは、譲歩したのかなあ?

さあな。

国連加盟だけじゃなく、EU加盟やコソボの独立も認めたのか、気になるね。

それは知らんが、セルビアのダチッチ外相は、こう言っている。
「独仏の計画は『コソボ独立はすでに決定されたという立場』を意味し、セルビアはそれを受け入れることができない」
「コソボが独立国家であるというその根拠は、我々にとって受け入れがたいものだからだ。」(EURACTIV

でも、合意したんでしょ?

だって、EUが脅すんだもん。

急に、かわいくなった!

だって、この提案を飲めば、セルビアにもっとおカネが集まるし、EU加盟にも近づくって言うんだもん。でもね、これを飲まなかったら、どんな目に合うかわかるだろ、って脅されたのよ。EURACTIV


3月18日の2回目の会談


う〜ん、そういうことか。
そうだ! あれはどうなった? あれ!
ヴチッチさんの悲願だった、「セルビア人自治体共同体」。
これさえ認めてくれたら、コソボの独立も国連加盟も手放しで許すって空気だったよね?

コソボで肩身の狭い思いをしている、コソボ・セルビア人を一つにまとめる「セルビア人自治体共同体」。
これについては、3月18日の2回目の会談で話し合われた。


「取引は成立している。
コソボとセルビア、関係正常化の道筋に関する合意の実施付属書に合意。
両当事者は、本契約の全条項を尊重し、それぞれの義務を迅速かつ誠実に履行することを完全に約束した。」(DeepL自動翻訳)

話し合われたのは、良かった!

会談後、ヴチッチはこう言っている。
「『セルビア人自治体共同体』の結成は、優先的な義務として設定された。」

「多くの意見の相違があったが、私たちはまともな会話をした」。(b92

コソボは、どう答えたんだろう?

コソボは、「セルビア人コミュニティ」の自主管理を確保するため、具体的な取り決めと保証について、EUとの対話と交渉を開始すると言ったらしい。b92

やった!! コソボも動き出す!

待て待て、そんなかんたんには動かないぞ。
クルティは、ワケのわからんことを言っているからな。
「附属書には『セルビア人コミュニティの自治に関する協議を開始する』と書かれているが、『セルビア人コミュニティ』と『セルビア人自治体共同体』は同じものじゃない」。b92

アルビン・クルティ首相

ええい?! めんどくさ〜い。

はなから、コソボ・アルバニア人は「セルビア人自治体共同体」を認めたくないのよ。
「行政権を持つ単一民族の組織」なんかできたら、コソボの統合と平和は脅かされる、多民族をモットーとするコソボ憲法の精神に違反するって。
Balkan Insight

「多民族をモットー」?
なら、コソボ・アルバニア人がコソボ・セルビア人をいじめるのは憲法違反だよね。同じコソボ人同士なら、仲良くしてほしいよ。

う〜む・・残念ながら、「コソボ人」という概念は存在しないらしい。

えっ! どういうこと?

たとえば、こんな話がある。
コソボの首都プリシュティナで、NATOのセルビア空爆を祝う記念式典があった。
そこに集まった人で、誰一人、コソボの旗を振っている者はいなかった。
彼らはみな、アメリカとアルバニアの旗を振っていた。

なるほど!
コソボ・アルバニア人は、「コソボ人」じゃなくて「アルバニア人」なんだ。

同様に、コソボ・セルビア人も、自分たちを「セルビア人」と思っている。
たとえば、サッカー選手の話がわかりやすい。
コソボ出身の一流のサッカー選手はいっぱいいる。
だが、いざ、ワールドカップとなると、誰もコソボ代表になりたがらない。
みな、それぞれが活躍しているスイスやフランスなどの代表になりたがる。

独立したと言いふらすくせに、だれもコソボを国だと認識していない。

多数派のコソボ・アルバニア人のほとんどは、コソボがアルバニアと合体して「大アルバニア」になることを夢見ている。


罪深きはCIAとNATO


そもそも、コソボ・アルバニア人と、コソボ・セルビア人。
なんで、こうなっちゃったの?


いろいろあったけど、昔は仲良く暮らしてたんだよ。
みんな、アメリカ(CIA)とNATOが悪いのよ。
空爆前のコソボには「コソボのガンジー」と慕われた、非暴力主義のルゴバ大統領がいて、人々は非暴力を願っていたのよ。
なのにCIAは、武力によるコソボ独立を目指すKLA(コソボ開放戦線)にカネと権力を与え、訓練してテロリストに仕立て上げ、そいつらを使って、セルビア人や抵抗するアルバニア人に暴力を振るわせた。

イブラヒム・ルゴバ大統領

罪深きはCIAとNATO。

おまけに、紛争が終わってからも、CIAはKLAの親玉をコソボの大統領にしたんだぞ。

コソボの大統領がKLA?
もしかして、クルティ首相もそう?

クルティはKLA出身じゃないが、「大アルバニア主義」を掲げる政党に所属している。

だから、今なお、コソボ・セルビア人は肩身の狭いを思いをしているのか。

一方、コソボ・アルバニア人も恐れている。
「セルビア人自治体共同体」を作られたら、バックに控えるセルビアが、再びコソボを支配してしまうのではないかと。
Balkan Insight

つまり、アルバニア人にとっても、セルビアは脅威なんだね。

どっちもどっちの肉食系だがな。
でも、コソボはひがんでいるんだ。
EUは、紛争を抱えているにも関わらず、セルビアを正式なEU加盟国候補にした。
なのに、コソボはしてくれない。


わかんないなあ、なんでそんなにEUに加盟したいかな?

加盟国は後悔してるのに、非加盟国はEUにあこがれる。
EUなんか加盟したって、プレッシャーかけられるだけなのにな。
今回のコソボ・セルビア会談だって、そう。
「今後、双方がEUに加盟したいのであれば、義務を果たすよう強硬に要求し、そうでない場合は影響が及ぶだろう、とEUは警告した。」b92


EU、コワ!

ヴチッチも、何度も脅迫されてきた。
コソボの独立承認、国連加盟を認めなければ、セルビアのEU加盟はなくなり、EUからの投資は終わり、EUはセルビアから撤退すると。
だが、EUはすでに、セルビアの外国投資の半分以上を占めている。

「現在、ドイツ資本の工場だけで8万人が働いている。彼ら(EU)は、セルビアが世界から孤立し、亡国となることを含め、他の多くの措置を脅かした。」(b92

ヴチッチさんも、頭イタいよねえ。


『プーチンカード』と『習カード』を持つセルビア


いやいや、EUがセルビアを見捨てても亡国にはならんだろう。
なんと言っても、「セルビアは公然と『プーチンカード』を使っており、将来的には、自分たちが要求する例外や特別扱いを受けられなければ、『習カード』を使うことになるだろう。」Balkan Insight

ロシア! そして、中国?

そうだ。
「中国との接近は、チャイナマネーという経済的なメリットを得るともに、EUに対して発言権を確保するための交渉の道具でもあるのだ。」GLOBE+

なるほど!
でも、セルビアと中国の組み合わせは、意外だなあ。

そんなことねえよ。
アメリカ・NATOに「悪役」に仕立てられたセルビアが、中国と組んでも不思議はない。
それに、セルビアがNATOから空爆されていた1999年の5月7日、ベオグラードの中国大使館に爆弾が落ちたのを覚えてるか?
NATOは「誤爆」と言ったが、「大使館へは3方向からミサイル攻撃が行われている。(中略)...死者4名、内1人は中国人記者、負傷者も10人ほど。」
北海道エスペラント連盟

3方向からのミサイル攻撃の、どこが「誤爆」?

破壊された中国大使館の跡地には、セルビア政府が建てた記念碑が建てられ、セルビアはヨーロッパでも、中国との関係が最も良い国家のひとつになった。WEB Voice


そうなんだ。

そんなセルビアが、さらに「中国シフト」に舵を切ったのは、ヴチッチの前の大統領、ニコリッチの時代だ。
「セルビアにとってEUは大事な支援者だが、合意形成が複雑で人権や民主についても意見を言われる。なかなか決まらない。彼らは中国の影響力は問題だとも言うが、だからといって行動には移さない」(GLOBE+

トミスラヴ・ニコリッチ大統領

EUは議会で決めるから、遅くなるのはしかたない。

そこへ、中国から「一帯一路」のお誘いが来た。
ニコリッチ「資金の使い道に条件をつけるEUの助言に従うのか。中国の支援で人々がよい生活をするほうを選ぶのか」。
平和外交研究所

一帯一路のルートと加盟国
Author:Lommes[CC BY-SA]

ということで、中国を選んだのか。

首都ベオグラードのドナウ川に架かる巨大な橋のたもとには、中国語とセルビア語で、「中国とセルビアの友好を記念する」と書かれてある。
朝日新聞
セルビアの高速道路も、中国から約270億円を借りて、建設されたものだ。
朝日新聞
セルビア・ハンガリー間の鉄道も、「一帯一路」のプロジェクトとして目下建設中だ。
JETRO


そんなにいろいろ、中国は作ってるのか。

コロナで大変だった時も、EUがEU外への医療用品の輸出を禁止した時も、中国はセルビアに医療チーム、マスクやガウンなどの医療物資を提供してくれた。
中国からの特別輸送機を出迎えたヴチッチが、中国国旗にキスしたことも話題になった!(朝日新聞

ワオー!

そして、セルビア全域でコロナの非常事態宣言を発令した時、ヴチッチは言った。
「欧州の連帯など存在しない。助けてくれるのは中国だけだ」。

YAHOO!ニュース

ヴチッチさん、中国のハニートラップに合ってないよね?

ちなみにセルビアでは、ワクチンは予約なしで無料。
しかも中国のシノファーム、ロシアのスプートニクV 、ファイザーの3種類から選べる。
だが、国民の3分の2が中国製ワクチンを選び、ヴチッチもシノファームを接種した。(朝日新聞

シノファームは、mRNAワクチンじゃなくて不活化ウイルスワクチン。
ファイザーよりはましかもね。

そんな中国への感謝の現れであろう。
2020年春、ベオグラードの町に「ありがとう習兄さん」の大きな看板が出現した。


「習兄さん」?

ブチッチは、習近平を「兄さん」と呼んでいる。(YAHOO!ニュース) 

もしかして、ハニートラップじゃなくて、義兄弟の盃を交わした?!

そう思えるほど、中国はセルビアに良くしてくれてるのよ。
たとえば、大手製鉄企業「USスチール」のセルビア製鉄所が経営不振に陥って、たった1ドルで売られた時も、残された5400人の雇用者を救ったのは中国だった。海外ニュース翻訳情報局
2016年、この製鉄所に立ち寄った習近平は演説した。「われわれが進めている『一帯一路』で、セルビアは重要な地位を占めるだろう」。
REUTERS

へえ〜。

中国は、ギリシャ最大の港、ピレウス港の半分以上の株を取得している。
そこに水揚げした中国製品を、パリ・イスタンブールを結ぶかつてのオリエント急行の線路を北上して、ベオグラード、ブダペストを経由してヨーロッパに売りさばきたい。

そのために、老朽化したベオグラード・ブダペスト間を複線化して、最高時速200キロの中国製の高速列車を走らせ、現在8時間かかるところを3時間でつなぐ予定だ。世界経済評論IMPACT

ピレウス港
Author:Nikolaos Diakidis[CC BY-SA]

セルビアに、中国の新幹線が走るのか。

ただ問題は、中国にカネを返せるかだ。
「建設には23億ドル(≒3000億円)が見込まれており,そのうちの85%を中国が20年間ローンで支給するが,利子など詳細は明らかにされていない。」

世界経済評論IMPACT

EUと中国、どっちもどっちだね。
ロシアにもっと頼ったら?


Writer

ぴょんぴょんDr.

白木 るい子(ぴょんぴょん先生)

1955年、大阪生まれ。うお座。
幼少期から学生時代を東京で過ごす。1979年東京女子医大卒業。
1985年、大分県別府市に移住。
1988年、別府市で、はくちょう会クリニックを開業。
以後26年半、主に漢方診療に携わった。
2014年11月末、クリニック閉院。
現在、豊後高田市で、田舎暮らしをエンジョイしている。
体癖7-3。エニアグラム4番(芸術家)

東洋医学セミナー受講者の声

Comments are closed.