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私たちの強みは同じ思いを持った人材が次々に増えていること
子育て支援者が垣根を越えて繋がるグループを作り、現場の声を行政に届けて、必要な事業を企画立案してきたお話は何度も書いたと思います。
その1つに、産後の助産師・小児科医の相談事業があります。市は国からの要請で助産師や産婦人科医による産後ケア事業をしなければいけないのですが、私たちが立ち上げた事業のいいところは小児科の相談も受けられることと、ママと赤ちゃんのお世話を先輩ママ達がしてくれることです。
赤ちゃんの抱き方や支援の要点を学んでママサポーターに登録します。お仕事内容は担当するママを案内して、ママがケアを受けている間の赤ちゃんを預かり、待ち時間にママの話し相手になる事です。
ママをねぎらって励まし、自分の体験談を話しながら市の子育て広場や子育て支援事業についての説明をします。もちろん、市から謝金が出ます。
始めて子育てをするママにとって、市の子育て支援のことなど何もわかりません。自分が何を困っているのかさえ理解していないママが多いのです。
でも、先輩ママが教えてくれると、自分も利用しようかな?という気になってくれます。勇気を出して来てくれさえしたら私達支援者が温かく迎え入れます。友達にも出会えるし、様々な支援に繋ぐことができます。
支援を受けたママ達が子育てに喜びを持てるようになり、やがては過去の自分のようなママの役に立ちたいと思ってくれるのです。そんなママを子育て支援グループに誘います。先輩ママの出番がたくさんあるからです。
例えば、新しく事業を立ち上げようと思っても、それを実行できる人材が無ければ始まりません。私たちの強みは同じ思いを持った人材が次々に増えていることです。
初めから目標を作り、そのための人材育成をしてきたのではありません。ママが一番困っている時に手を差し伸べただけで、ママのやる気が出て、自分も人の役に立ちたいと思ってくれるのです。
行政との関係もしかり。いつの間にか、ともに話せて働ける関係になっていました。
一目でわかる「子育てが楽しくなるガイド」を作ろう
そんな時、ふっと思いがよぎりました。
子育て支援事業は自慢できるほど充実してきたけれど、支援者が自己満足しているだけで、本当に必要なママ達に届いているのだろうか?と。どんないい支援があっても利用してくれなければ始まらないのです。
ママが市のHPで調べたり、行政からお知らせの紙をもらっただけでは行動に繋がりません。現実は市の窓口に置いてあるだけの広報だったりします。
家に引きこもっているママにどうしたら「大丈夫だよ、頼っていいよ」という思いを届けられるのでしょうか?市のアンケート調査でも半分以上のママが「そんな支援を知らない、行ったことがない」と回答しています。
そんな思いを保留にしてお皿を洗っていたら、ふっとひらめきました。
利用する気になる子育て情報誌を作れないか・・・と。
市がお金をかけて子育て情報誌を作っていますが、情報が多岐にわたり、しかも字が多くて読みません。それより見開き1ページで、産前から時系列の子育て支援ガイドがあればわかりやすいし、そこに利用したママの声を載せたら「行ってみようかな?」と感じるのではないかと思いつきました。
置く場所はタイミング的にも産婦人科の待合室や入院室がベスト。例えば、ホテルの部屋に写真満載の観光ガイドが置いてあると何気なく手に取って見ます。入院室は赤ちゃんを産んだばかりで2人きりです。赤ちゃんとの暮らしが現実味を帯びてきます。
そんな時に一目でわかる「子育てが楽しくなるガイド」があったらスッと入っていくのではないかと思いました。(今のママはどんな時もスマホを握りしめていますが・・・)
早速、あるママにそのアイデアをつぶやきました。30年前にそのママが学生だった頃、市の福祉情報を集めて冊子を作った間柄です。私の意図をすぐに理解してくれて仲間を集めることになりました。参加してくれそうなママの顔が浮かびます。
10人ほど集まってくれたので私の想いを伝えました。「どう思う?どんなガイドだったら読む?アイデアは?」など問いかけました。
「家に保健師さんが来てくれる“赤ちゃん訪問事業”は、自分が評価されるようで嫌だった。でも何でも相談していい、保健師さんはママの味方だとわかっていたら安心して頼っただろうな」「子育て広場は自分で遊べる子が行くところで、赤ちゃんはダメだと思っていた。早く行けばよかった」「預かり事業も産後ケアも実家の親みたいに頼っていい、と伝えたい」「この程度で支援を受けてはいけないと我慢して辛かった。あの時間を取り戻したい。早めに頼っていいよと伝えたい」「ママも休んでいいよ、と言ってあげたい!」と、次々に思いがあふれてきました。
いつの間にか「私たちの想いを届けたい!」と本気モードになっていました。まずは市の子育て支援情報や利用者の声を集めることにしました。ガイドとして出すならいい加減な情報は載せられません。ママ特派員が動き始めます。
そして、あるママが「私そんな仕事をしていました。パソコンでの作成は任せてください!」と奇跡の発言!一気に現実味が出てきました。
私は行政にこの話をして、実際に出生届の窓口で何を渡して、どんな説明をしているのかを聞きました。そこで見えてきたのは行政の体質。
4か月から3歳まで4回分の赤ちゃんの健診台帳や予防注射のスケジュール、市の子育て支援情報を全部「これは無くさないようにしてください。保健師が家庭訪問した時に説明します」と言ってファイルに入れて渡していたそうです。
出生届の時は保健証・乳幼児医療証申請など色々な手続きがあります。家族の人が行くケースがほとんどなのでママに聞くと、ファイルを渡されただけで一度も中を見ないで置いているとの事。
これでは読まないことが判明しました。でも、行政は「お知らせしました。支援はあります。受けたいなら自己申告してください」という姿勢です。日本は困っている人にもっと負担を強いる自己申告制です。
これはアカン!と思いました。
情報が集まりました。たくさんのママが「どんな情報誌だったら読むか?」「何が困ったか?」など聞き取りをしてくれました。保育園、子ども園が独自で取り組んでいる子育て支援情報は保育園の園長先生が聞き取りをしてくれました。聞き取りをする中で逆に刺激されて子育て支援を始める園も出てきたようです。
ママ達のイメージも具体的になって「字が多かったら読まない。絵が多い方がいい。支援の場所によって色分けした方が見やすい。産前から時系列に並べて欲しい。一枚の紙にして冷蔵庫などに貼れると便利。ママの声は吹き出しにした方がわかる。詳しい情報はQRコードを入れて、すぐに申し込めるようにする」などのアイデアが次々に出てきました。
タイトルも「子育てが楽になるガイド」としていたのですが、話し会ううちに「子育ては楽じゃないよね。大変だけど楽しいと思えたらいいよね」と「子育てが楽しくなるガイド」に変わっていきました。
「それ、うちで発行させてもらえないだろうか?」
さて、問題は資金です。資金の当てがないので私の中では家業の小児科医院として社会貢献してもいいと思っていました。でも、それでは企業の広告のようなニュアンスになるし、ママを利用したと思われたくないし、広がりが限定的になると感じて迷っていました。
もう、みんなの想いが動き出しています。スタートのひらめきも純粋にママのためでした。「このまま良心に沿って行動しよう、それをしていたら何かが見えてくる」という不思議な感覚がありました。
やはり、奇跡が起きました!
助産師と小児科医の相談事業で一緒に仕事をしていた子育て支援センター長に「実は子育て情報ガイドをママの声を入れて作っている」と話したら、「それ、うちで発行させてもらえないだろうか?」と言われたのです。
「え?どういう意味?」と聞いたら「実は毎年発行している情報誌を一新したいと思っていたけど、アイデアが浮かばなくて困っていた」と言われたのです。思わず涙が出そうでした。
編集はママに任せて、印刷代と発行を市の支援センターが出してくれる!嬉しくて、安心して、ママ達に初めてお金の話をしました。早速、支援センターの職員も参加して話し合いが始まりました。
支援センター長も子育て支援仲間だったので思いは同じでした。ありがたいことにその資金は市からの委託金。その上、市が出生届の時に全員に配ってくれる約束が出来上がっているし、毎年更新もできます。
ママ達も張り切りました。最終的に素晴らしいガイドができて、市に持っていきました。市にも感謝されて、全報道機関を集めた記者会見で発表することになりました。もちろん主役はママ達です。先輩ママが作った新米ママのための子育てが楽しくなるガイドです。
新聞社が記事にしてくれたおかげで他市町村からの問い合わせもあり、市内の店舗でも置かせてほしいという声が寄せられました。
このガイドは産前から始まる支援も網羅しているので、母子手帳交付の時にママに直接説明しながら手渡ししてくれるようになりました。産婦人科も部屋に置いて、マタニティセミナーや退院時に説明してくれているそうです。
どうか、この想いが孤立しているママの心に届きますように!
お掃除している時、ご飯を作っている時、歩いている時、ふっとアイデアが浮かんでくることがあります。私はそれをとても大事にしています。