戦後最大の迷宮入り事件「下山事件」
「下山事件」て知ってるか?
1949年(昭和24年)7月5日朝、下山国鉄総裁が出勤途中に失踪し、翌6日未明、足立区綾瀬の線路上で手足、胴体、頭、バラバラの轢死体で発見された。
戦後最大の迷宮入り事件、なんでしょ。
でも、あれは「自殺」で解決したんじゃないの。
いんや、自殺じゃねえ、れっきとした他殺だ。
どうして、わかるの?
下山総裁の遺体の轢かれた部分には、生体反応がなかった。
つまり、轢かれる前に死んでたってこと?
ああ、そうだ。
しかも奇妙なのは、現場にほとんど出血が見られなかった。
どうも、血を抜かれて殺されてから、線路の上に置かれたらしい。
ヒエエエ!! ドラキュラ〜!!
なんで、血を抜く必要があるの?
拷問するため。
満州じゃ、よく知られた方法らしい。
柴田哲孝(てつたか)著
「下山事件 最後の証言」を読めば、そこら辺のことが、映画を見るようによくわかる。
なんたって、
著者の柴田氏の祖父や親戚が「下山事件」に関わってたからな。
へえっ! 身内が事件に関わってたの?
柴田氏が敬愛する祖父の「ジイ君」、いつもスーツ姿に中折れ帽でパシッと決めた、ダンディな「ジイ君」。本名柴田宏(ゆたか)。
彼
の23回忌に、「ジイ君」の妹が、酒の勢いでポロッと言った。
「あんた、下山事件て聞いたことあるだろう。あれは自殺だとかなんとかいろいろ言われてるけどね。本当は、殺されたんだよ……」
「あの事件をやったのはね、もしかしたら、兄さんかもしれない……」。(22p)
ヘエエエ!!「ジイ君」が「下山事件」をやった?!
それを聞いて驚いた柴田氏は、「ジイ君」の真実を知るために「下山事件」の資料をかき集め、さまざまな関係者を取材して、完成したのがこの本だ。
で、「ジイ君」はクロだったの?
事件のナゾを解くカギとなる「亜細亜産業」と「ライカビル」
さあ、それは読んでのお楽しみさ。
同じ著者が書いた
小説版の「下山事件 暗殺者たちの夏」の方が、わかりやすいかも。
で、
事件のナゾを解くカギは、「ジイ君」が勤めていた「亜細亜産業」と、
「亜細亜産業」の入っていた「ライカビル」にあった。
ライカって、ドイツのカメラだよね。
ビルの1階に、ライカを輸入するシュミット商会が入っていたからな。
「ライカビル」は別名、「日本の右翼社会の総本山」とも呼ばれていた。(234p)
ひええ〜!
そして、
「ジイ君」の勤める「亜細亜産業」は2階。
満州で一儲けしたヤツらが、敗戦で無一文で帰ってきたところをリクルートしていた「亜細亜産業」。
「
亜細亜産業は、三浦義一と矢板玄(やいたくろし)の2人、満州で矢板機関という特務機関をやっていた人間が中心となった、右翼浪人の組織です。」
(
村本尚立のウェブサイト)
満州で特務機関?
ああ、いろいろやったらしいぜ。
「ジイ君」の弟の喬(たかし)は、「亜細亜産業」に勤めない理由をこう話していた。
「あんなおっかない会社、いられないよ。年中、誰を殺すのやら、誰が殺られたのって話してるんだぜ。それに、密輸だろう……」。(428p)
密輸?
そう言えば、満州の特務機関のほとんどが、アヘン売買に関わってたって言うね。(
ユダヤ問題のポイント)
その通り、
「亜細亜産業」も麻薬の密輸をやってたんだ。
「アヘン王」の里見甫(はじめ)を、GHQ参謀第二部(G2)のジャック・キャノンに紹介したのも、「亜細亜産業」代表の矢板玄(くろし)だよ。(316p)
う・・「ジイ君」の会社、そうとうヤバいじゃん。
で、「ライカビル」の3階は「三浦義一」の事務所、4階は「三浦義一」が取り仕切る「日本金銀運営会」と「国策社」があった。
「三浦義一」って、知らないなあ。
日本の、
右翼社会の頂点に君臨した男。(227p)
当時の首相、佐藤栄作をアゴで使う男。
こんな話がある。
佐藤首相から三浦にかかってきた電話で、三浦は佐藤に「とくに建国記念日の問題だが2月11日にしてもらわなきゃ責任は持てない。たのんだよ」とダメを押した。そして席へ戻ると、「おい、2月11日に決まったよ」と平然と言ったという。(228p)
佐藤栄作
ほんとだね。
で、
「三浦義一」の3階サロンには、右翼だとかヤクザだとかGHQや政治家だとか変な奴らが出入りしていたそうだ。(26p)
たとえば、白洲次郎、佐藤栄作、吉田茂、岸信介、社会党議員、共産党指導者、反共の国粋主義者、GHQの高官、韓国人、朝鮮人、殺し屋まで。
白洲次郎 (左) 吉田茂首相 (右)
白洲次郎も来てたんだ。
戦前からイギリス留学して英語ベラベラで、スポーツカーを乗り回す、カッコいい人。
は?
彼は、戦争が始まる前に田舎に疎開して、食糧難に備えて、農業をやってたんだよ。
誰も戦争が始まるなんて知らない時期に、先見の明があってスゴイよね。
アホ!
戦争が始まるって知ってたから、疎開したに決まってんだろ。
え?! 知ってたの?
自分だけ知ってて、逃げて、生き延びて、どこがカッコいいんだよ!
ズルいやつと思わんか? 赤紙も握りつぶしとるし。
(
人力検索はてな)
え?! 特権階級だったの?
それに、白洲は「三浦義一」と蜜月の仲だった。(229p)
うわ! そっちの人かあ。
そう言えば、戦争が始まる前にちゃっかり疎開した白洲の話で思い出した。
「亜細亜産業」に勤めていた女性社員の証言だ。
昭和20年の春、突然、同僚の工藤孝二郎が家に来た。
何しに来たのかと思ったら、
「あとニ−三日したらここは空襲になるから、荷物をできるだけ持って逃げろ」と言う。
言われたとおりにしたら、その後、本当に東京大空襲があって、彼女は助かったそうだ。(253p)
東京大空襲
なにそれ、知らなかった10万人の人たちは、死んじゃったのに。
工藤って人、なんで知ってたんだろう?
「亜細亜産業」は、そういうとこなんだよ。
戦時中に米軍の情報を知ってた、てことはアメリカのスパイだったの??
国民が戦争で殺されてたときに、何が起るか知ってた連中がいたんだな。
だけど、「亜細亜産業」にしろ「三浦義一」のサロンにしろ、集まった連中はそこで何をしてたんだろう。
そこを詰めれば、「下山事件」が解けるな。
下山総裁がなんで殺されたのか、わかるってこと?
いろいろな可能性がある。
下山が殺されたのは、国鉄の3万7千名を解雇する、第一次整理者名簿発表の翌日だった。また、下山が亡くなった後、国鉄の解雇は順調に運び、共産党、いわゆるアカの勢いも弱まった。
じゃあ、下山さんを殺したのは、アカを弱らせるためだったの?
たしかに、アカの増大を抑えたかったGHQにとっては、望ましい結果だが。
それは、結果論で、下山を消す理由は他にもあった。
当時の国鉄は、贈収賄の巣だった。
たとえば、国鉄は下請け業者に適正価格の2〜3倍の価格で発注する。
その価格は、国鉄と業者の談合によって決められる。
談合に参加できるのは、満州鉄道や旧日本陸海軍と取引があった団体や企業のみ。
そして、下請け業者は受注金額の3〜5%を、運輸省の役人や国鉄幹部にペイバックするという仕組み。(511p)
と言うことは、下山総裁もおカネをもらっていた?
いや、「下山さんは、良くも悪くも正義漢だった、融通が利かないというか。」(511p)
もらってなかったんだ。もしかして、逆に、それで殺された?
下山は、国鉄一筋の技術者で仲間思いの正義漢、国鉄の首切りも不本意だった。
国鉄の客車の椅子を発注する際に、運輸次官だった下山はこう言った。
「同じ椅子が、他の会社ならば半額で作れる。国鉄の設備投資の予算を半分に抑えることができれば、残りを人件費に回せる。人員整理も半分の5万人ですむ。」(512p)
仲間の首切りを減らすために、国鉄の収賄を止めさせようとしたんだね。
実にまっとうな考えだけど、危ないかも・・。
まさに、
その汚れたカネで潤っていた「亜細亜産業」や「三浦義一」のグループは、下山が運輸次官になった時期、経営が苦しかったと言う。(512p)
また、
国鉄東北本線の変電所建設の受注で、日立と東芝が争っていたころ、下山の一声で日立に決まった。それによって「亜細亜産業」のあるメンバーは、大損をした。
そいつは「下山を殺してバラバラにしてやる」と激怒した。(514p)
ヤバい! その通りになってるよ! いったい、それは誰?
「その名前はすでに、この本の中にも何度か登場している。」(514p)
小説版を読めば、もっと、はっきりわかる。
てことは、やっぱ「ジイ君」の「亜細亜産業」が下山さんをヤッたんだね。
いや、
「亜細亜産業」にも動機があるが、ヤツらは単なる実働部隊にすぎない。
事件が起きると知りながら、黙認していた連中がいる。
吉田茂とか、腰巾着の白洲次郎とか。
ええ??
国鉄のペイバックは当然、吉田の懐にも入ってたろうし、
後に、東北電力会長になった白洲にとって、電力業界へ資金が流れ込むことに反対だった下山は、ジャマだったはずだ。
それに、吉田も白洲も「ライカビル」によく顔を出していたから、計画は知ってたはず。
なるほど。
もひとつ、GHQも知りながら黙認していた。
GHQには、下山のように国鉄の汚職を一掃したいGSサイドと、汚職の利権をそのままに日本の富をアメリカに売り飛ばしたいG2サイドに分かれていた。
事件を黙認し、警察の捜査を遠ざけ、かつ事件に手を貸したのは後者だ。
やっぱり、GHQも手を貸してたのか。
そして、
日本を取り巻く世界情勢。
「あの頃の世界情勢はどうだったのか。その中で、
日本はどのような立場に立たされていたのか。それさえわかれば、なぜ、下山が殺されたのかもわかるだろう」と、矢板玄は言った。(342p)
たとえば、「
アメリカ対日協議会(ACJ)」。
ヤツらは、日本の財閥を復活させ、旧体制の要人たちを復権させようと圧力をかけていた。また、ふたたび戦争で儲けようと、次の朝鮮戦争に備えて「日本をアメリカのためのアジアの工場として復活させ、共産主義に対する防波堤にしようと考えていた。」(
Wiki)
アジアの工場、防波堤だって?
国鉄も、アジアの工場の歯車のひとつにすぎない。だから
、首を切って合理化したい。
それに乗り気でない下山は、ジャマでしかなかった。
下山さんは、国鉄の職員たちを守りたかっただけなのに。
そんなACJの日本側の主要メンバーが澤田夫妻(廉三と美喜)、白洲次郎や佐藤栄作も関係している。
澤田夫妻(廉三と美喜)
Wikipedia[Public Domain]
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アメリカの利益になるよう手引きした、って売国奴じゃないの?
もしもGHQのGSが失脚させれず、あのまま民主化路線で財閥が解体され、戦前の要人は公職追放され、自民党がCIAのしもべになることもなく、下山総裁のように汚職を嫌い、国民の生活を守るような政治家が日本を引っ張っ
ていたら、外国資本に甘い汁を吸われることなく、アメリカの永久基地になることもなく、豊かで民主的な日本になっていただろう。
ところが、
そうはさせるかって、下山総裁を見せしめにしたんだね。
下山総裁の死を、ムダにしたらもったいない。
「明治維新以来現在に至るまで、日本の支配者のほとんどが、『コンプラドール』、つまり植民地において宗主国のために自国民の財産や命を売り飛ばし、それにより金と権力を独占する『売国ブローカー』であったという悲しむべき歴史。」(
アマゾン書評)
「下山事件」の真相を知ることによって、今の日本を支配しているのがどういう連中か、わかってきたよ。
Writer
白木 るい子(ぴょんぴょん先生)
1955年、大阪生まれ。うお座。
幼少期から学生時代を東京で過ごす。1979年東京女子医大卒業。
1985年、大分県別府市に移住。
1988年、別府市で、はくちょう会クリニックを開業。
以後26年半、主に漢方診療に携わった。
2014年11月末、クリニック閉院。
現在、豊後高田市で、田舎暮らしをエンジョイしている。
体癖7-3。エニアグラム4番(芸術家)
ほんとに、何も知らずにのほほんと生きてきてごめんなさい、という感じです。
(本文のカッコ内のページは、すべてこの本のページです。)