ままぴよ日記 43 「私たちの町で産後ケアを始めよう!2 縦割り行政」

 連日新型コロナウイルスのニュースが流れています。でも、子育て広場はいつもと変わらずにぎわっています。
 外は雪。「子どもを連れて出かけるのがおっくうでやめようかと思ったけど、家の中にいると上の子を叱ってばかり。そんな自分が嫌で出てきました」というママ。
 「まあ、よく出てきたね!怒っている自分も辛いよね。疲れて余裕がなくなっているのよ。よく頑張っていると思うよ」とねぎらったら大粒の涙。
 こんなママに「コロナウイルスが危険だから1か月家に居なさい」なんて言ったらどうなるのだろう?
 私は内心ドキドキしながら「どうか、この子たちが自由に遊べますように!」と祈るばかりです。
(かんなまま)
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85.3%のママが子育てに苦しんでいる実態


日本は少子化に歯止めがかからず、子どもの出生数が1年間で86万人と過去最低になってしまいました。

産後鬱は10人に1人と言われていますが、民間のアンケートでは産後鬱と診断された人は4.6%、受診していないが産後鬱だったと自覚していた人34%、産後鬱の一歩手前だったという人46.7%を合わせたら何と85.3%のママが子育てに苦しんでいる実態がわかってきました。

そしてついに産後の自殺が8.7人/10万人となり、妊産婦死亡3.8人/10万人を大きく上回りました。(2018年国立成育医療センター)


子どもに関してざっと調べただけでも、
・子どもの虐待相談件数122,578件(2017年速報値/厚生労働省)
・不登校の小・中学生133,683人(2016年/文部科学省)
・子どもの貧困率(2016年18歳以下の子どもの7人に1人)わが県は5人に1人!
・子どもの自殺567人(2017年/警察庁・厚生労働省)ただし、大人の自殺は減少傾向なのに子どもの自殺は増えている

別の機会に詳しく書きたいと思っているのですが、発達しょう害を疑われる小中学生は全体の6.5%いると言われていますが、小学1年生は9.8%(2012年/文部科学省)です。我が町の4歳児も9.3%というのが実態です。

・特別支援の学校やクラスに在籍している子ども174,881人(2015年/文部科学省 11年前の2倍)
・普通クラスに在籍しながら必要に応じて特別支援を受けている子ども77,882人(2015年/文部科学省 20年前の7倍)


この子達は目を合わせない、こだわりが強い、落ち着かない、好きなものしか食べないなどの強い個性があるので新米ママ達は育てにくさに疲弊しています。一方、子どもは自分が一番困っているにもかかわらず、叱られてばかりで悪循環に陥ります。

最近増えてきている多胎児や未熟児を抱えた家族も声なきSOSを出しています。ある双子のママは目の前の子どものお世話だけでも大変なのに、双子の赤ちゃんを連れて支援の申請に出かけるなんて考えられないと言います。そういう家族にはアウトリーチで早期から介入して人間的な暮らしができる丁寧な支援が急務です。


もう一つ気になるのはゲーム漬け。ゲーム依存の中高生93万人。あと一歩の予備軍160万人(2018年/厚生労働省)となっています。この子たちは普通の暮らしができない状態です。引きこもりや家庭崩壊の危機すらあります。


このように子どもの数が半減しているにもかかわらず過去最多を更新する子ども達の生きづらい現状。私達は子ども達の幸せに生きる権利を奪っているのではないでしょうか?これは子どもや親の個人の問題を越えて子育てを忘れた社会の責任だと思います。

それなのに、
・日本の教育への公的支出(GDP比)は35か国中最下位(2019年OECD)
・家族関係の社会支出(GDP比)も最下位(2003年内閣府)

長年子育て支援をしていて、ため息が出ます。でも目の前の子どもやママ達にそれを憂いても仕方ありません。そして国の対応を待っていても間に合わないのです。


子育て世代包括支援センターは待ったなしの事業


さて、そういう現状を受けて令和2年度までに全国の市町村単位で窓口を一本化して妊娠期から18歳までの切れ目のない子育てを包括的に支援しなければいけなくなりました。それが子育て世代包括支援センターです。舌を噛みそうな名前!

というのも・・・行政は何でも縦割り。
我が町の場合は母子手帳交付と出生届は婚姻届けと同じ市民課。産後2か月以降の保健師や助産師による赤ちゃんの家への個別訪問、乳児健診事業は保健福祉課の中の母子保健係(高齢者福祉係の半分の保健師で対応)。


子育て広場、保育園、学童保育、虐待、女性相談事業は子育て支援課。発達、障害児支援、地域の主任児童委員、民生児童委員は福祉課。学校や幼稚園は教育委員会。PTAと放課後事業は生涯学習課。子どもの預かり事業ファミリーサポートセンターは社会福祉協議会。公園は町づくり課、冒険遊びのプレーパーク事業は担当課見当たらず・・・と子育てだけでも8課を渡り歩かなければいけません。

こんな事情をママ達は知りません。市報でお知らせしていますと言っても団地やマンションによっては自治体に加入していないので市報も回覧板も届きません。市のHPもどの支援がどの課にあるのかを先に知っておかないとわからない。そもそもどんな支援があるのかも知らないし、市が助けてくれるなんて思っていません。

やっとの思いで個人的な相談に行ったとしても市役所には子どもの居場所はないし、会話は筒抜け。個室は狭くて暗くて窓もなく取調室みたい!その上、市役所は同じ部署内でも担当の人以外は対応できないという事がよくあります。勇気を出して相談に行っても「今日はお休みしています」と言われたら帰るしかありません。異動する際の引継ぎも目の前の事で頭がいっぱいで今までの経緯や保留事項などは引き継ぐ時間がないのが現状です。


そうなのです。この子育て世代包括支援センターは待ったなしの事業ですが、市役所に任せておいてどこまで当事者目線で支援できるのかが疑問です。でも、残念な事に中身をどうするかは市に任されているのです。

我が町はどんなセンターを作るのか?この変革のタイミングを逃したら元の木阿弥。逆に、ここで改革出来たら何かが変わっていきます。チャンスです。もう介入しないわけにはいきません!

私達はその勢いに乗って全国の情報を集めました。猛勉強です。市内の子育て支援者とママ代表が集まって何度も話し合いました。そしてわが市でできる独自の産後ケアを考えました。

具体的には妊娠届をして母子手帳を貰うときや出生届や産科を退院する時にこの産後サポート事業のアナウンスをします。そして産後2週間目に全母親に電話訪問をします。その時におっぱいは大丈夫か?赤ちゃんの心配事はないか?などを聞きます。産後鬱の簡単な調査もします。そして助産師さんと小児科医に何でも相談できる産後サポートがある事を伝えます。


実際に来てくれたら皆でねぎらい、暖かくサポートして小児科医や助産師などの専門家につなぎ、今の不安を解消してあげます。そこには子育て広場のスタッフ、地域の民生委員、市の保健師、先輩ママもいてフォローします。

ママはみんなから励まされてホッとするでしょう。どんな小さなことでも相談していいし、見守ってもらえている事がわかり、子育てに前向きになれます。そして次のステップの子育てセミナーや広場を紹介することができます。まさに一人にしない支援です。

行政も縦割りの垣根を越えて、市内の小児科医と助産師、子育て広場のスタッフ、保育園、幼稚園、ママ達と協力しなければいけなくなり、市の事業に当事者感覚を持ち込むことができます。


「子どもの幸せのために同じ方向を向く」


さて、前回書いたように市に懇談を申し込みました。

市は私達の提案が具体的で人材までそろえている事にびっくりしながらも本気で対応しないといけないと思ってくれたようです。

「日ごろから皆様には感謝しています。こんな産後ケア事業の必要性も感じています。でも、今は予算組もしていないし、来年度4月からの検討課題として協力できるかどうか考えさせてください。担当できる保健師や場所の確保も必要ですから」との答えでした。

事業の必要性はわかってもらえたようでした。圧倒されているというのが本音でしょうか(笑)

でも、それでは来年度の事業になりません。私達はそんなことであきらめません。私達の後ろには声なきSOSを発信しているママ達がいます。「来年度と言わず1月からやってみましょう。やらなきゃわかりません。当面、ボランティアでもやる気ですし、人材はそろっています。お母さん方は待ったなしの状況です」「やりながら出てきた問題点をみんなで話し合って改善して、どんな支援が必要かを一緒に考えていきましょう」「目的はお母さんと赤ちゃんの幸せのため。同じ目的で同じ方向を向いて行きましょう」と言いました。


「やってみましょう!やりながら考えましょう!」なんて市では絶対出ないセリフです。でも、それを聞いていた部長が私達の気持ちに心を動かされて、場所の確保、担当の保健師などの調整をして、とりあえず1月から3月までのお試し事業をすることに賛同してくれました。同席していた子育て支援課も母子保健係も「子どもの幸せのために同じ方向を向くという事ですよね」と言ってくれました。私達の思いは伝わったようです。そして信頼してくれているのも感じました。

あくまでも主催は私達。「細かい調整は後で」ということになり、部屋を出た私達は満面の笑み!お互いにやったね!という気持ちで市役所を連れ立って歩きました。みんな本当に善意の人たちだなあと思いました。何の保証もなく、ボランティアでやろうというのに小躍りしています。

早速他の会員に報告しました。1月まで2か月もありません!さっそく具体的にいつ誰がどんなことをするのかを話し合いました。市からも連絡が入り、担当になった市の保健師さんから場所の候補、日時の具体的な案が出されました。さすが市の職員です。段取りも細かく調整してくれました。保健施設の空きがなく調整は難航しました。

実際に場所を見に行き、相談健診用のベッドがあるか?手洗いはできるか?なども含めて保健師さんと一緒に細かい調整をしました。でも、そのやり取りの中で市の担当者と気心が知れて何だかいい関係になっていきました。


一方で広報も考えなければいけません。チラシ作り班を決め、ママ達も動き始めました。


Writer

かんなまま様プロフィール

かんなまま

男女女男の4人の子育てを終わり、そのうち3人が海外で暮らしている。孫は9人。
今は夫と愛犬とで静かに暮らしているが週末に孫が遊びに来る+義理母の介護の日々。
仕事は目の前の暮らし全て。でも、いつの間にか専業主婦のキャリアを活かしてベビーマッサージを教えたり、子育て支援をしたり、学校や行政の子育てや教育施策に参画するようになった。

趣味は夫曰く「備蓄とマントラ」(笑)
体癖 2-5
月のヴァータ
年を重ねて人生一巡りを過ぎてしまった。
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