注)以下、文中の赤字・太字はシャンティ・フーラによるものです。
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種苗法改定、国民投票法改定… 重要法案のスピード採決が動く 学術会議問題でフェイクするな
転載元)
長周新聞 20/11/10
(前略)
(中略)国民生活はこれまで経験したことのない苦境に直面しており、国会で審議すべき喫緊の問題は山積している。そうした国民生活のひっ迫を横目に菅内閣は今臨時国会で、種苗法改定や憲法改正をにらんだ国民投票法改定、日英EPA承認の成立などを重要課題に位置づけている。
他方で国会審議やメディアの国会報道は日本学術会議会員の任命拒否問題に大半の時間を割いて国民の目を釘付けにし、肝心の法案の内容については国民には十分な説明もないまま強行可決する方向で進行している。森友・加計学園問題や桜を見る会問題で国会を空転させ審議時間のほとんどを費やし、共謀罪法や種子法廃止、日米FTA承認などの重要課題については審議時間はほぼなしに強行採決してきた手口と類似している。
(中略)
(中略)新型コロナウイルス対策が緊急課題となっている。
地方議会から国会にはPCR検査、検査機関や医療機関従事者への支援の拡充を求める意見書や、新型コロナ禍での地方財政の急激な悪化に対し地方税財源の確保を求める意見書などが多数上がっている。また、失業者増大への対応や中小企業への支援拡大など生活や事業継続の支援策が急がれている。
また、福島第一原発の汚染水の海洋放出に反対する意見書や、核兵器禁止条約の批准を求める意見書も提出されている。
そのほかにも、「イージス・アショア」代替案や、安倍前首相の「敵基地攻撃能力」導入発言問題も国民への説明が必要な問題だ。
国会で論議すべき課題が山積するなかで菅内閣は今臨時国会に以下のような法律案を提出している。
①種苗法改定、
②地方公務員法の改定(国家公務員の定年引き上げにともなう改定)、
③東京五輪の一年延長にともなう法改定、
④新型コロナワクチン接種にともなう検疫法の改定、
⑤被災者生活再建支援法の改定、
⑥郵便法の改定(一般の宅配業者との対等な競争条件を確保するための規制緩和・土曜日配達廃止など)、
⑦特定水産動物等の国内流通の適正化等に関する法律案、
⑧日英EPA承認案等である。
そして自民党がもっとも重視して今臨時国会での成立を狙っているのが憲法改正をにらんだ国民投票法の改定だ。国民投票法改定案は議員提案の法案で、この間継続審議になっている。
(中略) 国民投票法改正案は、憲法改正の手続き上の法案とはいえ憲法にかかわる問題であり、とくに国民の合意形成が不可欠なものだ。国会審議を十分におこない、国民に詳細にわたって説明する必要がある。だが、国会開会から2週間がたち、残り4週間となっているが、国会論議は日本学術会議問題が大半を占めており、強行採決が危惧されている。
食料安保を全国が注視
菅内閣は同じく先の国会で審議できず継続審議となってきた種苗法改正案の成立を狙っている。種苗法改正は、種子法廃止、農業競争力強化支援法と一体のものであり、農業者をはじめ消費者を含んで広く国民のなかで問題になっている。
(中略) 種子法廃止や種苗法改定は、日本の農業の根幹にかかわる問題であり、当然食料安全保障にかかわり、国民全体にかかわる重要問題だ。外国の多国籍企業が日本の種子を独占することで日本農業をなぎ倒し、危険な遺伝子組み換え作物やゲノム編集作物を市場に流通させることにつながりかねない。この問題に関しても多くの批判意見が国会に上がっており、十分な時間をかけて国民が納得のいく説明が必要だ。
また、菅政府にとって日英EPAの承認を今国会でおこなうことが至上命令となっている。これはイギリスのEU離脱にともなうもので、来年の1月1日までに日英EPAを発効しなければ、日欧EPAでの関税特権が消滅し、イギリスで生産している日本の自動車会社などが損失を被るためだ。そのためには今国会での承認が不可欠だ。
日本はイギリスに拠点をおいてトヨタや日産の自動車を組立てEU各国に輸出してきた。だがイギリスがEUを離脱し、日欧EPAで締結した低い関税率が適用されるのは12月末までで、それをすぎるとWTOの税率に戻される。日英EPA交渉では日本側は自動車・関連部品の関税低減を最優先課題とし、そのためには英国産のブルーチーズなど酪農品の扱いで大幅に譲歩もして10月23日に署名に持ち込んだ。日英EPAの内容については外務省のホームページに載せているだけで、国民に周知徹底はされていない。今国会で承認しなければ来年1月1日の発効ができなくなるという事情から、形式的な審議だけで通過させる危険性が高い。
41日間という短い会期のなかでこうした重要法案を審議するにもかかわらず、もっぱら日本学術会議問題だけに時間をかけていることを看過できない。大手メディアの報道もこの問題を大きくとりあげ国民の目を釘付けにし、注意をそらす役割をしている。
スピード可決が常態化
振り返って見ると、こうしたことは2017年2月から2018年末にかけて国会で紛糾した森友・加計問題や2019年の桜を見る会での国会空転でも経験したことだ。
2017年4月、森友問題で大騒ぎしている隙に当時の安倍政府は種子法廃止を強行した。2017年3月に衆議院の農林水産委員会に付託され、約5時間の審議のみで衆議院を通過、参議院でも5時間しか審議せずに成立した。2017年2月に閣議決定し、4月には可決というスピード審議であった。さらに種子法廃止とともに「農業競争力強化支援法」を同年5月に成立している。多くの国民がまったく知らない間に、森友問題に注意を引き寄せて成立させた。それに引き続く今国会での種苗法改正だ。
また、同じ2017年6月15日の早朝、共謀罪(テロ等準備罪)法が参院で強行採決された。委員会での審議時間は衆院の30時間25分に対し、参院は17時間50分にとどまった。
2018年には水道事業の民営化を促す水道法改正案が通常国会の衆議院厚生労働委員会でわずか8時間の審議で通過し、同年12月の臨時国会の参議院で成立した。 同年11月には外国人労働者の受け入れ拡大にともなう入管法改正案が衆院を通過したが、審議時間は計17時間15分。改正案は重要法案として与野党が合意した「重要広範議案」だったが、短くとも20時間とされる審議時間さえ満たさなかった。
また同年衆院外務委員会が11月28日、日欧EPAの承認案を可決したが、与党側は委員長職権で1日の審議で採決に踏み切り、審議時間はわずか4時間半にとどまった。
原子力損害賠償法改定案も同年11月22日に衆院本会議で可決されたが、審議時間は6時間15分という短さだった。
さらに同年11月の漁業法改正は、戦後の漁業制度を根本から転換するものであったにもかかわらず、衆院では農林水産委員会でわずか4日、参考人質疑も含め実質10時間半という、きわめて短時間の審議で採決が強行された。
また、2019年には「桜を見る会」問題一色の国会審議や大手メディアの報道となり、この目くらましの陰で安倍内閣はトランプが強く要求してきた日米FTAの年内承認、2020年1月1日発効を成功させた。
「桜を見る会」が問題となったのは2019年11月8日の参院予算委員会で「共産党」議員がとりあげたことがきっかけとなった。その後、「桜」一色の国会で、日米FTA承認に関する審議時間は衆議院ではわずか11時間あまりで、野党が退席した「空回し」時間を除けば10時間にも満たない。参議院ではさらに少ない約9時間だった。
ちなみにTPPでは衆議院で70時間、参議院で60時間の合計130時間を費やしている。またTPP11は両院で50時間近くを割いているのと比べても格段に短い。
この間の重要法案強行の手口を見ると、森友・加計問題、桜を見る会問題などをあえて引っ張り出して国会審議の時間をいたずらに費やし、国民にとっての重要課題については、審議はほとんどなしに国会を通過させるというのが共通している。これに野党も大手メディアも根こそぎ動員されて国民は目隠し状態となっていることに特徴がある。
日本学術会議問題については、それ自体は決しておろそかにはできないものの、憲法改正をにらんだ国民投票法改正案、種苗法改正案、日英EPA承認など国民生活にとって重要な課題についてまともな審議はせず、国民にはなにも知らせず目先をすり替えていく材料にして強行成立をはかろうとしている。
特に「スピード可決が常態化」の見出しで記された法案の数々とその審議時間の記録は圧倒的で背筋が冷えます。2017年以降、モリ・カケ・桜で国会が紛糾していた時期に、その裏で何が行われていたか。種子法廃止、共謀罪法、水道法改定、入管法改定、日欧EPA、原子力損害賠償法改定、漁業法改定、デジタル化促進法、、、いずれも通年国会で審議されるべき重大な法案が、わずかの審議時間で強行されています。
そして今、長周新聞は、学術会議任命問題に耳目が集まる裏で「国民が目隠し状態」のまま、審議時間もかけずに重要法案が強行される手口が共通していると警告されていました。
日本学術会議問題は無論大事ですが、同様に種苗法など他の重要法案の行方もしっかり見届け、どの議員がどのような動きをしたか、まさか強行採決に加担しないか要チェック。せめて菅政権の好き勝手にさせないよう声を上げ、近いとみられる選挙に反映させねばなりません。はなから国民を欺くつもりの政府だと気の休まる暇もなし。