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1人にしてはいけない
「この子は抱っこしないと寝ません。だから1人で寝る練習をしています」と、2ヶ月の赤ちゃんを持ったママが言いました。「どうやって1人で寝せているの?」と聞くと「夜の8時になったら隣の部屋を暗くして1人で寝せます。泣いても行きません。諦めて寝てくれるように訓練しています」というのです。
このママだけなのかと思っていたら、他のママ達の口からも「ネントレしています。泣く赤ちゃんと根競べです」などなど。どうもネットで流行っているらしいのです。でも、そのママが「昨日、泣き声が変だから行ってみたら赤ちゃんの顔に毛布が被さって苦しそうにしていたのでびっくりしました。怖かったです」と報告してくれました。
いいタイミングだったので、赤ちゃんを1人にしてはいけない事と、事故は家庭内で起こる事をお話ししました。本当は赤ちゃんの健やかな成長を願っているママ。「知らなかった。聞いてよかった」と言ってくれました。
そんなママは目に見える湿疹にはとても敏感で、高い薬をネットで調べて取り寄せているようです。何とまあ、アンバランスな子育てですが、自分で一生懸命に考えて判断しているのでしょう。こんなママが大勢います。新米ママを1人にしてはいけないと痛感しています。
一瞬、目を離したあいだに。。。
さて、開業したばかりの頃の話です。
2歳の元気な男の子が、お母さんが洗濯物を干している間に居なくなりました。お母さんはその子が家にいないので外を探しに行きました。近所の人も一緒に探し回りましたが、どこにもいません。
実は、私も4番目の子が2歳の時に突然家からいなくなったことがあるので、他人ごとではありません。
このお母さんは家に戻って、もしや…と、お風呂場をのぞくと、洗濯後の残った水の中に子どもが沈んでいたのです。すぐに救急車で運ばれてきたのですが、すでに心肺停止状態で、蘇生措置をしましたが亡くなってしまいました。その時のお母さんの苦悩と悲しみ、半狂乱の姿が、今でも目に焼き付いています。
私も同じ親として胸が張り裂けそうでした。はげます言葉も見当たらず、ただお母さんの背中を撫で続ける事しかできませんでした。
その子はお母さんを追って洗濯機がある、お風呂場に行ったのでしょう。ドアが開いていたので浴槽をのぞき込んだら、頭が重たいので落ちてしまったのです。浴槽の底は焦ると足が滑ります。何度もあがいているうちに水を飲んで溺れたのです。
まさか、家の中で。それも浅い水でおぼれるなんて想像もしません。でも、子どもは5センチの水で溺れるのです。
実は赤ちゃんの死因のトップは家庭内の事故です。
月齢・年齢別でみる起こりやすい事故(あいち はぐみんネットより)
やっと授かった赤ちゃん。2歳になるまでどれだけお世話をしたでしょう。20分もかかるおっぱいを1日に10回以上もやって、1日に15回もおむつを替えて、泣いたら抱っこして、お世話に明け暮れて・・・夜中に何度も起こされて・・・ママはふらふらになりながらも、あらゆることに配慮しながら子ども守り、育ててきました。
それなのに、一瞬、目を離しただけで事故にあうのです。
1歳前の赤ちゃんの死因
そして、1歳前の赤ちゃんの死因で一番多いのが窒息です。
赤ちゃんは4ヶ月が過ぎたら突然、自分で寝返りができるようになります。でも、初めはうつぶせになったまま元に戻れません。ちょっと目を話している間にやわらかい布団に顔を埋めて、首をあげる事が出来なくて窒息するかもしれません。赤ちゃんは静かに亡くなります。
次に誤飲。
5ヶ月を過ぎた頃、赤ちゃんは何でも口に入れるようになります。口が一番敏感なので確かめているのです。特に10か月を過ぎると自分で移動して何でも指でつまむことができます。これは、子どもの成長にとって大事なことですが、赤ちゃんは安全な物と危険な物の区別がわかりません。特に4センチ以内のものが危険です。
小児科にも「たばこの吸い殻を食べた」「おじいちゃんの血圧の薬を飲んだ」「コインやボタン電池を飲んだ」などで運び込まれてきます。ボタン電池などは胃に穴が開いて危険です。
ある日、おじいちゃんが畳の染料をペットボトルに入れて保管していたのを、孫がジュースだと思って一気に飲んだ子が運ばれてきました。1時間以内だったので、染料の中身を確かめて、すぐに胃の洗浄をしたのですが、強制的に生理食塩水を胃に入れて吐かせる光景を見ておじいちゃんは卒倒しそうでした。
他にピーナッツを何個も鼻に詰め込んだ子、耳に詰め込んだ子が自分で取ろうとして逆に奥に入れてしまって運ばれてくることもあります。豆が水分を吸って大きくなるので厄介です。鯛の骨も喉に詰まらせたら痛くてたまりません。
食べ物を口にくわえながら走るのも危険です。まだ子どもが小さかった頃、アパートの駐車場で近所の子ども達を遊ばせていた時に、隣の子がこけて急に眼を白黒させて苦しみだしました。どうも、飴をくわえながら走っていたようです。それを見たママは気が動転して叫ぶばかりで動けなくなってしまいました。
窒息したら大変です。時間がありません。私はとっさにその子をうつぶせに抱え上げて背中を強く叩きました。幸いその一撃で飴が飛んで出てきました。無我夢中でしたがホッとしました。
他に、お箸をくわえて転び、そのお箸が口の中を突き抜けて脳に突き刺さった子がいました。トウモロコシを食べながら走って転び、気管に入ってしまった子もいます。そのことに気が付かないまま肺炎を起こして、手術をしてトウモロコシのかけらを取らなければなくなった事例もあります。
次に怖いのがやけどです。
赤ちゃんは寝返りだけで部屋中を移動したり、いきなりハイハイができるようになります。当たり前のように置いているコード付きの電気ポットを倒したり、炊飯器から立ち上がる湯気を触って大やけどをします。
ソファやベッドに赤ちゃんを寝かせていたら、いきなり寝返りを打って落下することもあります。好奇心旺盛で高いところが大好きな赤ちゃん。無謀にも階段をどんどん登ります。本人は落ちる事など考えていませんが、頭が重いので落ちます。ベランダに置いてある箱に登ってマンションから落下する事故も起きています。
つかまり立ちをして、そのまま後ろに倒れるのは日常茶飯事。歩行器に入った赤ちゃんは自分の実力ではないのに、すいすい動き回ります。歩行器のまま玄関から落ちて骨を折る事故が多発しています。
我が家では3歳のお兄ちゃんが色々なところから飛び降りるのが楽しくてジャンプしたところ、下で昼寝をしていた妹の腕を直撃して骨を折ったことがありました。突然、火が付いたように泣き出した妹。お兄ちゃんもびっくりして一緒に泣き出してしまいました。親が目の前にいるのに防げないこともしばしばです。
子育ては本当に大変です。複数の子どもがいたら、お兄ちゃんが遊んでいる小さなブロックを好奇心旺盛な赤ちゃんが飲み込んでしまう等、何倍も危険が増します。それを予防するためにも、親は子どもの成長と行動の傾向を知り、想像力を働かせて家の中の危険物を事前に排除したり、安心して遊ぶスペースを作るなど知恵を出す必要があります。
そのためには日頃から子どもをよく観察する事です。我が子をよく見ていると、「アッ、転ぶ!」「アッ、触る!」「アッ、登る!」というように、子どもの行動が先に見えてきます。その能力は磨くしかありません。
DFRさんからも情報をいただきました。この小児科のように誤飲した実物が展示されているのを見たらびっくりする事でしょう。
今日病院に掲示してあった!
— おぼん®☺︎35w→5m(修正4m) (@1Ottobon) September 16, 2020
気をつけるのは食べ物だけじゃないのはもちろん、年齢も結構大きくなっても注意が必要なんだなと勉強になったので共有します! pic.twitter.com/rjQK0ura6e
ママ達は子どもと家の中で普通に生活しているだけのように見えますが、このように子どもの一挙手一投足に気を配っているのです。「仕事にも行っていないし、家で子どもと遊んでいるだけ」などと言わないでください。何事もない状態を保つだけで大変な事なのです。
さて、実際に事故が起こった時に、どう対処するのか?ほとんどの親は気が動転します。冷蔵庫などの目に留まりやすいところに、対処の仕方、連絡先などを貼っておくのも有効です。
娘が暮らすオーストラリアでは、産前のマタニティセミナーで家庭内の事故についての講習会を受講しなければならないことになっているそうです。是非、日本でも取り入れてほしいと思います。
でも、事故が怖くて何もさせないのは、子どもの成長という意味で問題です。命取りになるような危険は排除しながらも、「熱い」「滑る」「落ちる」「刺さる」「折れる」などの危険性をプチ体験学習させたいものです。そして、屋外の遊び等で、想定外の小さなリスクを乗り越える経験を積んで、自分自身が危険を回避できるような身のこなしと、感覚を磨いて行ってほしいと思います。
子どもの無事を祈り、子どもの無事を感謝する
もう一つ。親がベストを尽くしても、回避できないことも起こります。私が子育てをする中で、これまで命にかかわるような事故を回避できたのは神様に祈り続けたからだと思っています。
子どもの数が増えるたびに目が届かないことが増えていきます。でも、子どもの行動を制限するのも限界があります。このジレンマの中で、いつの間にか、毎朝子どもの無事を祈り、寝る前に子どもの無事を感謝することを始めていました。そのおかげで自分が落ち着きを取り戻せていたような気がします。
今は強力な除霊と浄化の祈りが公開されています。赤ちゃんのうちは親が子どものことを祈ってあげられるのではないでしょうか?まとまった時間を祈りの時間に充てるのは大変でしょうが、大きな安心につながると思います。
これは喜ばしい事ですが、小児科の経営という意味では大打撃です。幸い我が家は借金がなく、家賃も払う必要がないので、どうにか回っている状態です。このままいくと倒産するところも増えるのではないでしょうか。
一方で、世の中は少子化が進み、子育て環境の変化に伴って子どもの姿が大きく変わってきました。ある意味、大人社会の経済中心の生活が子どもの成長に影響を与えています。特にコロナ禍で、家の中に籠っている子ども達。周囲から苦情が来るので、静かにしているように強いられて、その代わりにメディアを与えられています。
都会に住む、知り合いの3歳の女の子が、いきなり奇声を発するようになりました。暴力をふるったり、癇癪を起して手に負えません。困り果てた親は精神科を受診して薬を貰うようになったとか。これは決して病気ではなく、子どもが子どもらしくいる事を制限されたストレスの症状です。このような子がどのくらいいるのでしょう。
そんな子ども達の事がとても気になります。子どもの健やかな成長を支援するのが小児科です。今後、子どもが大人社会の犠牲者にならないためにも、小児科医の役割が大きく変わる必要があるのではないかと感じています。経営面ではますます赤字になりますが・・・。
今回はコロナ禍で家に籠りがちなママのために、子どもの家庭内事故について書きたいと思います。特に、新米ママ達は子どもがいる暮らしさえ想像できないまま赤ちゃんのお世話をしています。