ぴょんぴょんの「挑発するコソボ(3)」 ~セルビアの苦悩

 「挑発するコソボ」(1)(2)に続く第3弾です。
 あれから、コソボとセルビアはどうなったのか?
 そろそろと追いかけていくと、今年に入ってアメリカとEUが口を挟んできました。
 親ロシアで、ロシア制裁に加わらないセルビアに向かって、ロシア制裁に協力するならEUに加盟できるよう口を利いてやる、ロシア制裁に協力するならコソボに住むセルビア人を守ってやらんでもない、と言い出したのです。
 でも、セルビアはEUとアメリカを信用していません。
 コソボのセルビア人を守るために、セルビアはどう動くのか?
(ぴょんぴょん)
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ぴょんぴょんの「挑発するコソボ(3)」 ~セルビアの苦悩


これまでのおさらい


去年の12月、コソボ政府とセルビアは一触即発だったよね。
あれから、どうなったんだろう?

クリスマスや年末を挟んで、小休止してるのかな?

気になるか? それなら、結論を先に言おう。
12月29日、セルビアのヴチッチ大統領はバリケードを築いているコソボ在住のセルビア人らと対話した。彼らは大統領の提言に従って、バリケードを撤去することに決めた。
それと同時に、ヴチッチはセルビア軍の戦闘態勢を解除した。
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ほっ! 良かった良かった。

だが、「良かった」じゃ終わんねえの。
こっからが大変なの。

じゃあ、何が大変なのかを聞く前に、これまでのおさらいをしてよ。

わかった。

外務省より


この地図の、色がついてるところが現在のセルビア共和国。
その南にある、ひし形の領域がコソボだ。
コソボは元々セルビア共和国の自治州の一つだった。
コソボ紛争(1998〜1999)をきっかけに独立運動が始まり、2008年欧米の支援もあって、コソボは一方的にセルビアからの独立を宣言した。
コソボの独立を承認したのは日本を含む欧米諸国。
ロシアや中国など世界60カ国以上は承認していない。
セルビアもコソボの独立を認めておらず、今でも自国の領土の一部と見なしている。(Sputnik

思い出した。
世界未公認だから、「コソボ共和国(仮)」だったよね。

問題は、コソボ人口の92%がアルバニア人で、セルビア人はたったの4%しかいないことだ。
さっきの地図を見ればわかるが、コソボの北はアルバニアに面している。
そっから入ってきたアルバニア人多数が、コソボ南部に住んでいる。
そして4%のセルビア人は主に、セルビアに面したコソボ北部に住んでいる。

長年、2つの人種間でいざこざが耐えなかったんだよね。

その大きな原因が、アルバニア人の悲願である「大アルバニア」計画だ。

Author:Babaroga[CC BY-SA]


赤い部分の「大アルバニア」にはコソボがスッポリ入ってる。

だから、コソボの4%のセルビア人を追い出したいんだ。
一方セルビアも、セルビア聖教の聖地があるコソボを手放したくない。

どっちも譲れないんだね。

そういうワケで、アルバニア人で構成されるコソボ政府は、コソボ・セルビア人にいやがらせを続けてきた。中でも、去年7月末の「セルビア・ナンバープレート禁止」は、突然のこともあり、コソボ・セルビア人を怒らせた。彼らは幹線道路にバリケードを張って抗議した。これが第1ラウンド。

カ〜ン!

第2ラウンドは、12月の逮捕劇から始まった。
12月10日、元セルビア人警察官デヤン・パンチッチが、セルビアからコソボに入国する際、テロの疑いで「コソボ特殊警察部隊、通称ROSU(A Regional Operations Support Unit of Kosovo Police)」に逮捕された。


ROSUと言えば、特別訓練を受けたコワい人たちだよね。

ああ、コソボ政府お抱えの秘密警察だ。


パンチッチ逮捕の翌日から、こいつらがセルビア人居住区でウロウロし始めたので、
セルビア人たちは怯え、バリケードで防衛した。

事態を重く見たセルビアのヴチッチ大統領は、セルビア警察と軍隊をコソボに派遣することをNATOの治安維持部隊KFORに要請した。

セルビアがコソボに軍隊を出すには、NATOの許可が必要だったよね。

だがそれは、ドイツの反対によって認められなかった。
セルビア国防相ヴチェヴィッチは言った。
「コソボのアルビン・クルティ首相(仮)は、コソボとメトヒヤでセルビア人が生存できない状況を作りたいのだ。」(b92

コソボのクルティ首相(仮)
Wikimedia_Commons[Public Domain]

「狂ったクルティ」って覚えたよ。

バリケードを張って10日目の12月21日、「狂ったクルティ」は「バリケードの撤去は、犠牲者なしに行われるものでない」と言った。

つまり、バリケードを撤去するためなら、犠牲者が出てもかまわないと?

そのようだ。
セルビアのヴチェヴィッチ国防相は言った。
「これは間違いなくセルビア人、セルビア、とりわけコソボとメトヒヤに住む人々への脅威であり、クルティが人間の犠牲者さえ気にかけていないという明確なメッセージだ。」
「クルティ政権の最終目標が、コソボ北部の民族浄化だということを、忘れてはならない。」(b92

「狂ったクルティ」は、大アルバニア実現のために、コソボ・セルビア人が1人残らずいなくなればいいと思ってるんだ。


セルビア国民を非常に怒らせるできごと


12月22日、コソボ北部のセルビア人たちは、長さ250メートルのセルビア国旗を掲げて、平和的な抗議集会を行った。
「我々は犯罪者じゃない !クルティの特殊部隊ROSUこそが犯罪者だ!」
「プリシュティナ(コソボ首都)から毎日受ける恐怖と根拠のない逮捕、セルビア人殺害のためのリストが書かれた秘密リスト、クルティの特殊部隊によるセルビア人の虐待、今日我々が集まったのは、プリシュティナと彼らの指導者に、我々はここにいて、平和と同時に自由を求めており、セルビア人のすべてを破壊しようとする者に屈しないことを伝えるためだ。」(b92

DeepL訳:セルビア人の集団抗議が終了、
クルティのテロに「ノー」、ラキッチ「私たちは平和と自由を望んでいる」

12月26日、ヴチッチ大統領は、セルビア国軍に最高レベルの戦闘態勢をとるよう命じた。一方、コソボ政府も1500人以上の特殊部隊を戦闘態勢にして、コソボ北部への攻撃準備をした。b92

緊迫してきたね。

同じ26日、セルビア国民を非常に怒らせるできごとがあった。
セルビア正教会のトップ、ポルフィリエ総主教がクリスマスのために、コソボにあるセルビア正教の中心「ペーチ総主教修道院」に行こうとしたら、コソボに入れてもらえなかった。
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クリスマスなのに?!

ブッちぎれたのは、ヴチッチ大統領。
「このようなことは歴史上一度もなかった」
「恥を知れ、嘘つきどもめ」「何が望みだ?誰かを殺すためか?」「NATOと一緒にセルビア領土を乗っ取り、破壊し、踏みにじった者たちは、今日もなおそうしようとしている。お前たちがセルビア人を殺したいと思っていることを知っている」「最終目標は、セルビア人の永久追放であり、特にコソボとメトヒヤから不従順なセルビア人を追放することだ。」b92

ヴチッチ大統領
Wikimedia_Commons[Public Domain]

温厚そうなヴチッチさんが、これほど怒るとは。


バリケードの撤去と、セルビア軍戦闘態勢の解除


だが、良いニュースもあった。
12月10日に逮捕され、拘留中だった元警察官パンチッチが、12月28日に釈放された。
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バリケードが築かれた一つの理由が、この人の逮捕だったよね。

そう、パンチッチの釈放で、バリケードの理由が一つ消えた。
そこで、ヴチッチ大統領は、コソボ・セルビア人たちにバリケードの撤去を要請した。
というのも、「狂ったクルティ」が「NATOの治安部隊KFORがバリケードを撤去しなければ、特殊部隊が撤去しに行く」と脅したからだ。(b92

「犠牲者が出てもいい」って言ってたしね。

だが、バリケードを撤去したら、セルビア人居住区をうろうろする特殊部隊に何をされるかわからない。
現地に住む、元警察官は言った。
「コソボ北部に凶悪犯(特殊部隊)がいる間は、セルビア人の生活はなく、北部はいわゆるコソボ国家ではない。」
「だから、バリケードを撤去すれば、我々はウサギのように狩られるだろう。」
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ヴチッチ大統領も、困っちゃうね。

たしかに、現地の生々しい話を聞けば、とても放っておける状況じゃない。
さっきの元警察官は、大統領に訴えた。
「数ヶ月前、仲間のトラックが特殊部隊に銃撃された。仲間は走り出し、撃たれ、倒れたところで、見分けがつかないほど切り刻まれた。救急車も拘束され、捜査され、負傷者を助けることは許されなかった。検査院は、刑事犯罪の要素はないと言った。」
コソボの警察大臣も、これらはすべて正当な武力行使だと述べ、被害届を出しても誰も罰せられなかった。

「いわゆるコソボには、法と正義は存在しない。」(b92

なんか、このやり方はアルバニアマフィアのやり方だね。
「セルビアからマケドニア、ギリシャにまたがる大アルバニア主義の実現を目指して活動するテロリスト団体は今だって健在。(中略)...大勢のセルビア人がコソボで拉致・人身売買され、その後アルバニア本国に連れて行かれて移植用臓器摘出の『部品取り』のために殺されたり売春宿に売られたおぞましい事実がある……」。
YAHOO!知恵袋

アルバニア共和国国旗
Wikimedia_Commons[Public Domain]

ヤツら、特殊警察部隊と言いつつも、実際はテロリストだな。
元警察官は続けた。
「自分が何を相手にしているのかわかっているが、アルバニア人はそこで止まらず、テロを続けるだろう。」
それに答えて、ヴチッチ大統領、
「どんな狂人が、プリシュティナ(コソボ)で相手をしているか知っている。」
「アルバニア人は何年も、いや何十年も、我々に対して様々なことを組織しており、彼らはそのタイミングを待っていたのだ。我々は彼らと平和を築くべきだ。」
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平和を築けるのかな? 相手はテロリストだよ。

結局、住人らは「自分の国に逆らうことはしたくない」と、大統領の言うことに従った。b92
12月29日にバリケードは撤去され、同時にセルビア軍の戦闘態勢も解除された。
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年末まで解決できて、一応ホッとしたね。


新たなセルビアの苦悩の始まり「おそらく最も困難な一年が待っている」


ホッとしたのも束の間、年が明けて、また新たなセルビアの苦悩が始まった。
コソボ・セルビア人の現状に、まったく興味もなさそうなEU・アメリカが、コソボ問題に首を突っ込んできた。
ヴチッチ「セルビアは、世界で最も強力な国々との、より困難な対話を待っている。」
「決定的な一年、おそらく最も困難な一年が待っている。」

「すべての背景には、圧力、圧力、圧力...。 」(b92

EUもアメリカも、何をしたいんだろう?

すみやかにコソボを手放せ、コソボの国連加入、EU加盟に口を出すな。
さもなくば、コソボ・セルビア人が何をされても知らん、と。
1月20日、EU、アメリカ、フランス、ドイツ、イタリアの代表「ビッグ5」が、セルビアの首都ベオグラードを訪れた。
ヴチッチ「困難な日々と決断が待ち受けている。」「セルビア大統領として、提案された計画に同意しない場合、我が国の前に置かれる問題や課題に直面するのは明らかだ。」(b92

首都ベオグラード

なにが話し合われたんだろう?

ヴチッチは、この日を振り返って言った。
「私が直面したのは、ただの殴打であった。EUはセルビアにとって最大の投資家であり、援助者であるということを公平に伝えなければならない。彼らは鈍器を携えてやってきたのだから。」(b92

どういうこと?
経済を使って、セルビアを脅してきたってこと?

そんなとこだな。
だが、アメリカ代表の話はもっとわかりやすいぞ。
セルビアは2009年12月にEU加盟に申請したが、「ロシア寄り」が理由で認可されずにいる。そこで、アメリカ代表は提案した。西側諸国と一緒にロシア制裁に参加しろ、そうすればアメリカはセルビアに、経済的・外交的支援を提供する用意があるし、EU加盟も夢じゃないと。euronews

う〜ん、わかりやすい!

だが、コソボ政府にピタッと張り付くアメリカが言うことだぞ。
信じられるか?

むり。
それに、EU加盟をエサにしてもねえ。
今どき加盟したい国がいたら、アホだよ。
ロシア制裁でエネルギーは不足するわ、ウクライナ支援でカネをむしり取られるわ。



まったくだ。
隣りのハンガリーだって、EUを脱退したくてしょうがないのにな。
それにセルビア国内での、EU加盟へのテンションも下がってるそうだ。
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でも、この話を蹴れば、セルビアの経済は急降下するかもしれない。

だとしても、セルビアはアメリカを信じていない。
ヴチッチ「コソボはアメリカの子どもであり、アメリカはコソボを守っている。」b92
「西側諸国に対する我々の信頼はもはや存在しない、これが最大の問題である。」
b92

だよねえ。

アメリカと同じようなことを、EUも言ってきた。
対ロシア制裁に協力しなければ、外国からセルビアへの投資にも影響する。
また、コソボ・セルビア人の権利に関する交渉に進展はない、と。(b92

つまり、ロシア制裁に加われば、見返りにコソボ・セルビア人の権利を守ってやるって意味だね。これじゃまるで、コソボ・セルビア人は人質みたいだ。

もともとそれが目的で、EU・アメリカはコソボの独立を支援したんじゃね?
コソボ・セルビア人を人質にとることで、セルビアが脅威にならないようにするために。

そういうことか。
彼らは、そうやって伏線を敷くのが好きだよね。

セルビアはどうするのか?
ロシア制裁に加われば経済的に助かるし、コソボ・セルビア人も守られる。

でも、保証はないよね?

ない。
それは、ヴチッチも骨身にしみてわかっている。
ロシア制裁を受け入れてEUに加盟しても、いいことはない。
ロシアとの関係が壊れる上に、ハンガリーのようにEUの経済競争に負けて失望するだけ。
またロシア制裁を受け入れて、EU・アメリカがコソボ・セルビア人を守ると言っても、大アルバニアを夢見るコソボ政府がそれをさせるはずがない。


プリシュティナのコソボ政府ビル
Wikimedia_Commons[Public Domain]

となると、どうやってコソボのセルビア人を守るんだ?
ああ、コソボのセルビア人が心配だ。
いっそのこと、セルビア人をみんな、セルビア国内に避難させたらどうだろう?

アホ! 
それが、ヤツらの思うツボだろが!
大アルバニアが実現するって、おお喜びだろが?!

あ、そうだった!
コソボからセルビア人を追い出すのが、彼らのねらいだった。

コソボの地で、コソボ・セルビア人が安全に暮らせるようにするには、どうしたらいいのか?

まさか、ドネツクとルガンスクのロシア人を守ったロシアみたいに、侵攻することはしないよね?

「困難な日々と決断が待ち受けている。」
ヴチッチの頭の中には、そういう構図もあるのかもしれない。
だがそうなると、相手はコソボ政府だけじゃない。
かつてNATOの爆撃を受けたセルビアが、ふたたびアメリカ・NATOを相手に戦うことになるだろう。

なんとか武力衝突せずに、解決できる方法を見つけられるかな?

ヴチッチよ、今は正念場だが、短気にならずに時間を稼げ。
そうしていれば、周囲の環境がどんどん変化して、いい方法が見つかるかもしれない。

神さま、セルビアに良いお知恵を!



Writer

ぴょんぴょんDr.

白木 るい子(ぴょんぴょん先生)

1955年、大阪生まれ。うお座。
幼少期から学生時代を東京で過ごす。1979年東京女子医大卒業。
1985年、大分県別府市に移住。
1988年、別府市で、はくちょう会クリニックを開業。
以後26年半、主に漢方診療に携わった。
2014年11月末、クリニック閉院。
現在、豊後高田市で、田舎暮らしをエンジョイしている。
体癖7-3。エニアグラム4番(芸術家)

東洋医学セミナー受講者の声

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