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ユダヤ問題のポイント(近・現代編) ― 外伝89 ― 消せない傷
泥棒戦争のイラク戦争
Wikimedia Commons [Public Domain]
日本人がイラク戦争の具体を知るには、『長周新聞』の記事がやはり優れています。同紙2003年12月16日記事の
アメリカのイラク戦争の目的が世界第二位の埋蔵量を誇るイラクの豊富な石油資源を強奪し、軍事力で市場を開放させる泥棒戦争
とのこの一文が、イラク戦争の要旨になります。
イラク戦争という名の米国のイラクへの泥棒侵攻は、「ペトロダラー・システム保持」が主目的でしたが、長期的な意味では「石油資源強奪のため」となります。主に英米に巣食うパワー(グローバル)・エリートたちとイラクとの関係は長期に渡っています。ジョン・コールマン博士の『石油の戦争とパレスチナの闇』の本文の出だしは、それについて以下の指摘となります。
イラクに潤沢な油田が見つかって、93年に及ぶイラクとの“戦い”は始まった。
(中略)
石油という高価な宝を狙うひとつの国イギリスが、共犯の国々(アメリカなど)の賛助を得て、胸の悪くなるような悪行と虚偽の限りを尽くした、イラクに対するあからさまな侵略(中略)
アメリカは、石油を資源として持つすべての国々に対して、つねに攻撃的政策をとってきた(中略)...その外交政策は石油産業によって決定され、それによってアメリカ国民は莫大な額のツケを回されてきた。
(p22〜23)
イラク地方に油田が発見されて以来、石油資源強奪を狙う英米に巣食うパワー・エリートたちは、絶え間ない卑劣な作戦を展開。この中には第1次世界大戦のオスマン帝国解体と中東の意図的に切り刻んだ国境地図や湾岸戦争などがあります。こうした卑劣な工作の集大成が、2003年3月20日開始のイラク戦争だったわけです。
前出の『長周新聞』の記事「戦争で破壊し復興需要つくる イラク占領の狙い 石油略奪し米企業が復興」には、米大統領命令布告で合法的にイラクの石油資源を米国企業が盗み放題に盗め、しかもそれにより出てくる被害は一切免除されるとの強奪の具体が記され、「イラクの石油が米独占企業に支配されるのは必至である。」と締めています。
まさにアーロン・ルッソ監督インタビュー動画で、911テロの11ヶ月前にニック・ロックフェラーが語った「イラクを侵略して油田を確保する。」が実現したわけです。
パワー・エリートたちの強奪は石油資源だけではありません。記事には米軍需大手はイラク攻撃によって大儲けした上に、その自分たちが起した破壊の復興事業でも大儲けする具体も記されており、イラク復興事業で最も利益を上げたのはハリバートン社であるとしています。ハリバートン社は、チェイニー副大統領がCEOを勤めていた軍需産業部門も抱える企業です。
また記事には出ていませんが、イラク復興事業で大いに利益を上げたのが米大手ゼネコンのベクテル社です。ベクテル社はロックフェラー系の企業であり、ブッシュ親子の政権とは非常に緊密な関係にあります。
でっち上げの虚偽で始めたイラク戦争という大量虐殺と強奪破壊は、パワー・エリートたちが「濡れ手で粟」の利益を確保するための要素が非常に強いものだったのです。
無数の被害者たち
2003年3月に始められたイラク戦争、当時のブッシュ米大統領は同年5月に「終結宣言」を出しますが終わりません。
一旦は米軍がイラクから完全撤収し、当時のオバマ大統領がイラク戦争の終結を正式に宣言したのが2011年12月でした。この間にどれほどの犠牲者が出たのか? 正確な数字は分からないのです。
もともとが虚偽で始められたイラク戦争です。パワー・エリートたちは自分たちに都合の悪いものは徹底的に隠蔽糊塗しますし、そもそも彼らは自分が殺害したゴイムの数などは記録しないでしょう。
その中でかなり正確だと思えるのが2013年10月17日の『ナショナルジオグラフィック』の記事です。次の記載です。
シアトルにあるワシントン大学の公衆衛生専門家エイミー・ハゴピアン(Amy Hagopian)氏率いる国際チームは、イラク全土の世帯で家族やきょうだいに関する調査を実施した。イラク保健省の関係者も参加したこの調査は、イラク戦争に関連して、過去の調査より新しく正確な推定死者数を導きだすことを目的に行われた。
「死者は約50万人と推定している。これはおそらく控えめな数字だ」とハゴピアン氏は述べる。「戦争という決断がどれほどの人的被害をもたらすのか、我々は知る必要がある」。
「死者は約50万人と推定している。これはおそらく控えめな数字だ」とハゴピアン氏は述べる。「戦争という決断がどれほどの人的被害をもたらすのか、我々は知る必要がある」。
控えめに見積もっても、イラクの民間人の死者数は、2003年3月から2011年12月までの間で50万人以上になるようです。100万人以上のイラク人が殺害されれたという情報もあります。死者数でこうですから、一生消えることの無い傷や後遺症を負った人々、生活の場を完全に破壊された人々は無数だということです。
前出の『長周新聞』記事では次のようにも指摘しています。
失業者はあふれている。イラクではほとんどが国営工場や事業所の労働者であるため「民営化」で失業者は増加する。(中略)...イラク国内では「盗賊(アリババ)行為だ」との怒りが渦巻いている。だがアメリカはこれを「中東の民主化モデル」だけでなく「経済改革の手本」といっている。
パワー・エリートが他国の国富を私物化するのに用いるのが「国有物」の「民営化」なのです。このように「神の名の下」にパワー・エリートが大虐殺と強奪破壊によって莫大な利益を手中にすることで、無数のイラク人の犠牲者が生まれたのです。
しかし、戦争による犠牲者はイラク人だけではありません。湾岸戦争でも多くの米国兵が意図的に死傷させられ、帰還後も湾岸戦争症候群で心身ともに苦しめられました。イラク戦争も同様です。現場の兵士たちは死傷するほかにも、帰還後も長期間において苦しみます。心身ともに決して消すことのできない深い傷を負わせられたのです。安全な場所でぬくぬくと悦に入って、一方的に莫大な利益を得ているものと現場の兵士たちは全く違うのです。現場の最前線で戦う米国兵士たちは大概が貧困家庭の若者です。彼らも兵士になる前からのパワー・エリートの犠牲者たちです。
イラク帰還兵の証言
これが帰還後の米国兵たちの現実だったようです。
イラクでは大量の劣化ウラン弾が使用されました。その影響でイラクでは先天性異常の子どもたちが多く生まれています。
ただし劣化ウラン弾による被爆はイラク人だけでなく、現場の米兵にもあるのです。こうやって米兵たちも身体に消せない障害を負います。
しかし、その身体の傷以上に深いのが精神的な傷です。彼らにはパワー・エリートたちとは異なり「良心の呵責」がついて回るのです。戦争で精神的な傷害を負った帰還兵達は、母国で通常の生活を営むことができません。多くの帰還兵がアルコールやドラッグに溺れ、ホームレスとして生活し、自殺していくのです。
(前略)...後悔の念だけが残りました・・・
この占領の実態を目の前にすれば、人種差別なんて言葉じゃ、もう騙せやしない。彼らは獣じゃなかった・・・同じ人間なんです!
(中略)
テロリストが相手だ、と聞かされていた。しかし、実際のテロリストは自分たちであって、この占領事態がテロそのものだ、と悟りました。軍隊の中にあって、人種差別を悪とする思想は、他国に対する破壊や占領の口実にできる、今尚使える重要手段の一つです。その思想を利用して、他国の民を殺害、隷属、拷問してもよい口実にしてきたのです。
人種差別という思想は、この政府が重宝する手段の一つなのです。この思想は、ライフル銃や、戦車や、爆撃機や、戦艦を使うよりも、もっと重要な手段だ。砲弾・バンカーバスター・トマホーク巡航ミサイルよりも破壊力がある。このような兵器を今のこの政府が製造、保持してはいるが、使おうとする人々がいなければ害はない。
このように語るのは、イラク帰還兵のマイク・プライズナー氏です。彼は赴任のイラクにて、多くのイラク人家族の住み家を奪ってきた。しかし米国に帰還後に目にしたのは、悲惨なサブプライム危機で家を差し押さえられ、通りに放り出されている家族だったといいます。そして「差別思想が無ければ、兵士達は自分たちを戦争に送った大金持ちたちよりも、イラクの人々に多くの共通点があることに気づいたでしょう。」と語り、「目を覚まそう!!(中略)...そしてもっと良い世界を作ることは可能です!」と語りかけます。
本文での翻訳とは少し異なりますがこのマイク・プライズナー氏の語りのすべては『TUP冬の兵士プロジェクト』「速報847号 イラク・アフガニスタン帰還兵の証言No.13 マイク・プライズナー」で読むことができます。
「分断して統治せよ。」 統治者は巧みに民衆から収奪し、民衆を不足状態にした上で、不足の民衆どうしで互い反目させるのです。民衆は互いにあらぬ敵にエネルギー消耗し、肝心の犯人、自分たちから収奪した統治者に目が行きません。こうした夢遊病状態にした民衆の争いを利用して、統治者はさらなる収奪を重ねます。
一連の収奪と争いの根本には、植え付けられた「差別思想」があります。差別思想を利用した統治と分断の争い、この構図はイラク戦争にも当てはまります。米国では貧富の二極化が、当時にはすでにくっきりしていました。その貧困を作り出した統治者が、貧困者つまり自分たちが作った犠牲者をさらに巧みに利用物とします。貧困者は少なからずプライドが傷つけられ、自信喪失しています。その米国貧困家庭の若者に、統治者のパワー・エリートがメディアなどを使用して囁きます。
それでも、その辛い体験の中から目覚めていく人たちもいます。