注)以下、文中の赤字・太字はシャンティ・フーラによるものです。
クローズアップ 日米FATと農業
聞き手:田代洋一 横浜国立大学・大妻女子大学名誉教授
◆成立しているが眠っているTPP協定
田代 米国が批准しないTPPになりました。そのことで「TPPはなくなった」と、ほっと一息ついている人たちもいるようです。またJAグループも「農協改革」ということで次々と攻められ、その対応で手いっぱいの状況で危険な状態にありますが、いかがでしょうか。
山田 米国は離脱するという正式な通報を寄託国のニュージーランドに通知し、各国に正式に伝えられました。これが国際法上どういう意味をもつかということをTPP違憲訴訟弁護団や国際コンサルタントで米国の議会動向の専門家でもあるトーマス・カトウ氏とも検討しましたが、「離脱」通報は、単なる政治的な意味合いであって、国際法上は昨年2月4日に署名したことで成立しているということになります。ただ、批准がされていないので、発効できないだけです。
米国で大統領が変わったりすれば、いつTPPが起き上がってくるか分からないということです。
そうしたなかで、3月14~15日、チリで米国を除く11カ国の会談が行われました(米国の駐チリ大使が傍聴)。そのなかで確認されたのは、TPP協定をもう一度、何らかの形で復活させようということです。チリとかペルーはコロンビア、中国、韓国を入れて新たなものにといっています。ニュージーランドやオーストラリアは、11ヶ国でといっています。このようにまだいろいろな動きがあります。
つまり「TPP協定は眠っている」が「成立していることに間違いない」ということです。
◆危険な種子法廃止 狙われる水稲原種
田代 それに対する日本政府の構えはどうですか
山田 日本政府は、米韓FTAで韓国が200本の法律を変えたように、TPP協定に沿った国内法の整備をどんどん行っています。
その一環として「農協改革」があります。協同組合という考えがありませんから全農「株式会社化」とか、農業競争力強化支援法案(以下、競争力支援法)や種子法の廃止など8法案を国会に上程していますし、水道法を改定して国や自治体で管理していたものをすべて民間に任せるというTPP協定第15章の「政府調達」に沿ったものにしようとしています。
TPP協定は、発効はしていないけれど、日本政府は着々と協定にそって進めているということですが、こうしたことを多くのメディアは報道していません。
そして日米の交換文書のなかに「日本政府は米国の産業界の要望を聞いて、各省庁で可能な限りそれを検討させ可能なものについて、規制改革推進会議に付託する。規制改革推進会議の提言に日本政府は従う」という主旨のことが書かれています。
田代 種子法廃止もその一環ということですね。
山田 米の原種については県などの試験研究機関が維持し、長い時間と金をかけ、新しい優良品種を開発して安く生産者に提供してきています。日本でも一部で水稲種子をもっている民間企業もありますが、開発には多くの時間と金がかかります。
しかし、種子法を廃止するとともに競争力支援法の第8条の4では、別掲のように、独立行政法人や試験研究機関、都道府県が持っている「種苗の生産に関する知見の民間事業者への提供を促進」するとあります。日本の主食である稲の種子を、大手企業や海外の種子企業に無償で提供しなさいということです。
彼らにとっては、長年にわたって研究開発されてきた稲種子市場は狙い目です。日本の農家が稲種子を自家更新するのは10%程度ですから、海外の種子企業の稲種子を日本の生産者は買うことになります。彼らが市場を支配すると、まだ安全性についてカルタヘナ承認がとれていませんが遺伝子組換え稲種子が次にくると思いますね。食品安全委員会はすでに安全だといっていますから申請さえすれば作付できるようになります。
こうしたことが分かっていながら、なぜ農業団体が動かないのかと思います。
田代 TPPはなくなっておらず、日本政府はその受け入れのため着々と法整備を進めているということですが、種子法廃止を含めて米国からの強い要求によるもと考えていいのでしょうか。
山田 間違いなく、米国からの要求です。規制改革推進会議で検討して、法案化していますからね...。
競争力支援法では、全農改革や一応保留してもらっている准組合員制度について、2018年5月までに調査し19年5月まで施策検討しろとなっています。JA共済を株式会社にしてJAから切り離など、米国の意向に沿って着々と進めているんです。
(中略)
◆生協と共に協同組合のあり方考える
田代 競争力支援法の目玉にされている「収入保険」についてはどうお考えですか。
山田 民主党政権の時に「所得補償」をやりましたが、欧州では当然のことですし、米国の米では目標価格を設定してその差額を不足払いしています。欧州の場合は6~8割が、米国でも農家所得の3割が所得補償で、これは収入保険ではありません。
保険というのは自分が保険金を払っているわけですから、自分の金を積み立てて自分でもらうようなものです。これは所得補償とはいえません。
米国でもやっていますが、食の安全、自給率のために、国の金を思い切り入れて所得補償していいんですよ。
田代 いったい競争力強化支援の真の狙いは何なのでしょうか。
山田 農業を潰そうという法律にしか見えません。
私が農水大臣の時には、大規模化や合理化だけがこれからの農業ではないと考え、EUのように家族を軸に営農している農家をみてこいといいました。それが日本の農業だからです。米国型の企業農業は「奴隷農場」を目指しているんです。種子と農薬を先付にして...。
(以下略)
日米の交換文書では「日本政府は米国の産業界の要望を聞いて、規制改革推進会議に付託し、その提言に日本政府は従う」とあり、[規制改革推進会議]なるものが日本政府の上位にあるとされています。
規制改革推進会議の提言に基づいた種子法の廃止(2018年3月いっぱいで廃止)により、長年に渡って研究開発されてきた稲の種子情報は大手企業や海外の種子企業に無償で提供されてしまいます。日本の農家が稲種子を自家更新するのは10%程度ですから、このことにより、海外の種子企業の稲種子を日本の生産者は買うことになるのです。さらに、彼らが市場を支配すると、遺伝子組換え稲種子が次にくると思われるとのことです。食品安全委員会はすでに安全だといっていますから申請さえすれば作付できてしまうのです。
また、トランプ政権はTPP離脱宣言で日米二国間交渉(FTA)を優先的に行う意向で、その交渉では農業分野でのTPP以上の市場開放を要求してくるといわれています。
こうしたことを多くのメディアは報道しません。このままでは多国籍企業に農業を支配されてしまうという、まさに国難を伝える、山田正彦元農林水産大臣からのまともなメッセージです。これを国難と思わない人はヤバイです。
IWJでのインタビューも必見です。「日本の種子(たね)を守る会」の顧問でもある山田正彦氏は、「TPP違憲訴訟の会」の呼びかけ人の一人でもあります。この中でイタリアの市民運動である「五つ星運動」が紹介されています。リーダーのリカルド氏は、11/28(火)に参議院会館講堂にて講演会をされます。