久しぶりの再会

おお、
着いたな。 けっこう、近えんだなあ、地球。
久しぶり・・って、懐かしんでる場合じゃねえ、お仕事お仕事・・と。
おや? あれは・・・??・・・
どっかで、見たような?
誰だっけかな?
あのお、すみませんが、
どこかでお会いしたことが・・・・・。

は??
はあ?
どこかで、お会いしてないでしょうか?

(クンクン・・そう言えば、
この臭い、いつかどこかで、かいだ覚えがある。)

(人違いかなあ? だけど、
下から見上げるこの表情は、どっかで見たことが。)

もしや・・あなたは?

もしや、おめえは?
く ろ さ ん ??

そして、
おめえは く ろ ま る か ??

くろさんでしたかあ〜。
どうも、
ご無沙汰しています。
その節は、たいへんお世話になりました。
わたしの現在の名前は、ブラックボウルと申します。
そして、
こちらが妻のピンクボウル、長女のオレンジボウル。
妻の抱いてる赤ん坊が、長男のブルーボウルです。

(なんだ?「ボウル」ってのは、名字なのか?)
奥さん、始めまして。
おれは、前世で、こいつの世話をしてた、くろっつうものです。
どうか、お見知りおきを。
って、おめえも、りっぱな子持ちになったんだな。
ってゆうか、
おめえ人間になってたんだな。
おめでとう!!
道端で死にかけていたとき、くろさんに助けていただきました。
生死をさまよっていたぼくに、くろさんはガヤトリーマントラを教えてくださった。
あれ以来、ずっと唱えておりました、愛のマントラといっしょに。

そうか、
そのおかげで、こんなに早く人間になったんか?
すげえな、ガヤトリーマントラは。

そういう、
くろさんこそ、今は地球をご卒業なさったようで。

おう、おれも
今は、ぴょんぴょん座の・ω・星に転生してるんだ。

お互いに、良かったですね。
でも、
ネコだった時代もなつかしい。
ずいぶん、
かわいがっていただきました。
ときどき食べさせてもらった、アジ。

おめえは、サバが合わねえで、アジしか食わなかったな。

タイも大好きでしたが・・・。

ぜーたくなヤツだったな、おめえは。

いろいろと、よくしていただきましたが、何より
楽しみだったのが、くろさんとガヤトリーマントラを唱えるときでした。

おお、
おめえはよく、おれの膝の上に乗って、じいっと聞いてたな。
ガヤトリーマントラがなければ、こうして早く人間になることはできなかったでしょう。
そして、
こんなすばらしい妻と出会うことも、なかったでしょう。
おめえはよく、ネコより人間に近えって言われてたが、ガヤトリーマントラのおかげだったのか。
はい、くろさんのマネしたくて。
本来の美しさと豊かさを取り戻した未来の地球

ほんで、
地球はどうなんだ?

そらあもう、
ネコだった頃とは、まるっと変わってます。
宇宙人が地球にたくさんやって来て、放射能汚染の場所を、ことごとくきれいにしてくれました。
海に大量に垂れ流された放射性物質も、きれいに取り除かれました。
おかげで
地球は、本来の美しさと豊かさを、すっかり取りもどしました。

そうかそうか、そいつはえがったなあ。
気象兵器とかで、地球はメチャクチャにされてたが。

ああ、ありましたねえ、でも
今では、干ばつで雨が降らずに困っているところにしか使われていません。

景気はどうや?
経済は、AIによってうまくコントロールされているので、株式を不正に操作されて不況になることもありません。
ていうか、
おカネはほとんどいりません。

カネがいらない?
地域ごとに協同組合が立ち上げられて、活発に物資を回しています。
その物資が、県や州、そして国といった、より大きな単位に売られて行くときだけ、おカネのようなものが行き来しますが。
自治体から、必要最低限の生活必需品は支給されますし、それ以上のぜいたくをしたいとも思いません。
うちに
余っている物と交換で、手作りの高品質な品物が手に入りますし。

そうか、
昔の地球とは、えれえ違いだな。
ものが不足して困ることもありませんし、貧富の差もありません。
余分なものは、必要な人に分けるだけです。
自治体がちゃんと、生活の保証してくれるから、一番大事なことに専念できるしな。
ただ、
気になるのは、カネも時間も持て余してるヤツら。
昔の地球じゃよく見かけたが、なんもすることがねえんで、パチンコ行ったり、悪い遊びをしたり、どんどん堕落していくようなヤツら、いねえか?

パチンコって何ですか?

ギャンブルさ、って言っても通じねえか。
じゃ、テレビゲームはどうだ? そんくらいの娯楽はあるだろう?

テレビゲーム? ないです。
大事な時間を家族とすごす、ペットをかわいがる、庭の手入れをする、自然を愛でる。
そういうことに満足してるので、
それ以外のものはつまらないと感じます。

おめえだって、
遊んでたじゃねえか? ネズミのおもちゃとか?
おもちゃは必要ありません。
ぼくだって外で、本物のネズミを相手にするほうが、よっぽど楽しかったですよ。
おもちゃで喜ぶのは、家の中に閉じ込められたネコだけです。
外にはもっと、ダイナミックな楽しみがありましたから。
その点、
くろさんの家の周りはたくさんおもしろいことがあって、楽しかった。

ただの田舎なんだがな。
今のネコたちは、地球で幸せにしてるかな?
昔よりずっとずっと、幸せだと思います。
彼らはまず、全員がガヤトリーマントラを唱えています。
ですから、
あっという間に人間になっちゃうんです。

てことは、あれか?
石たちも、木や、花たちもみんなそうってことか?

はい。
実を言うと、ガヤトリーマントラが一番最初に広まったのは、人間ではありません。
妖精や、動物、植物、鉱物、エレメントたち、そして最後が人間でした。

やっぱ、そうか。
今の地球には、自分さえ良ければいいと思う人はいません。
みな、
誰かの役に立つことを幸せに感じる人ばかりです。

おおう、
変わったなあ。
あらゆる国の支配者層が入れ代わりましたから。
天界や宇宙の法に習って、現在の地球では、心のきれいな人しか役職につけません。
結果的に、
ほとんどのリーダーが女性になりましたが。

国も変わったのか?
地球全体が、よい意味で、一つの国のように仲良しです。
かつての合衆国を思い出してください。
自治は州単位で行われますが、全体的なことは、地球の議会で民主的に決められています。

そうか、じゃ、
外国って概念はねえんだな。
どこに行くのも自由です。パスポートも必要ありません。
ぼくたちは、地球のあちこちに家を持っていて、好きなときにそこで暮らしています。
たとえば、赤ん坊のブルーは雪が好きなので、南極に家を建てました。
娘のオレンジは、アマゾンの密林の小屋が落ち着くと言いますし、
妻のピンクは、夏の北欧の、森の家で過ごすのが好きです。
ぼくは、サーフィンが好きですから、ハワイの小屋が一番ですがね。

ぜーたく!
つうか、
地球をまるごと楽しんでるなあ。
子育てとかは? 保育所の問題とかねえのか?

保育所って、なんですか?
母親が働きに出るとき、子供はだれが面倒見るのか?

まず、
母親が働く必要がありません。
子供たちはすべて、各家庭で大事に育てられています。

その、奥さんが抱っこしてるブルー君は?
ピンクもブルーも、生まれたときからずっと、ぼくたちが交互に抱っこして育てています。
くろさん、見てないんですか?
「夫婦」と「親子」の講座を?
ここじゃあ、みんな、親になる前に「夫婦」と「親子」の講座
の視聴は必須なんですよ。
あれを見ないで、どうやって夫婦仲良くやっていけるんです?
どうやって、まともに子供を育てられるんです?
今の地球人の常識ですよ。
もちろん、
ガヤトリーマントラと愛のマントラ、除霊と浄化の祈りをやってない人はどこにもいません。

スゲえ〜!!
地球がそんな星になるなんて、おれの時代は想像もつかなかったぜ。

だから、
みんな家族が仲良しで、そして地域が平和で、国が平和で、地球全体が平和になるわけです。

じゃ、
学校とかはどうなった?

ああ、
学校という制度は、新しい地球人にそぐわないということで、とっくに消えました。
ぼくも、学校に行った覚えはありません。
幼い頃は両親や兄弟たちと、たっぷり自然の中で遊んで過ごしました。
ぼくの場合、小さい頃から絵を描くのが好きで、6才くらいから、ぼくの大好きな絵描きさんのところに、週に2回遊びに行ってました。
絵を描くための勉強はしましたが、
必要に応じた勉強しかしていません。

じゃ、なんだね?
それぞれの子供が、やりたいことができる環境が整ってるってわけだね。

はい。
大人の専門家も子供だからと言って、幼稚なことを教えるのではなく、最初からプロフェッショナルなことを教えてくれるのです。
妻は刺繍の専門家で、ピンクは数学が大好きで、いずれ数学者になりたいと言っています。

こりゃ、
かんなままも喜ぶなあ。
で、ブルーは何になるんだ?
ブルーは今、外で遊ぶのが楽しい時ですので、遊びたいだけ遊ばせています。
そいつぁ、理想的だ。
じゃ、
病気になるヤツとか、いねえのか?
それはいますよ。
でも、各家庭に診断機械、携帯の治療器、治療ベッドが無料で支給されていて、おかしくなったら
いつでも、自宅で診断し、治療することができます。

その機械とやらに、
副作用とか、ねえのか?

副作用? 治療ですから、
治ることしかありえませんよ。
風邪のように軽いものなら、治療器を当てるだけで治ります。
少し
複雑な病気は、ベッドの上に寝るだけで、自分の内臓の状態が3Dで見えるんです。
天井から、ファイバーのような触手が出てきて、悪いところに入って勝手に治療してくれます。

地球もそこまで来たか。
となると、
病院はいらねえな。

はい、
病院はとっくの昔に消えました。
というか、そんな便利な機械が家にあるのに、わざわざ外に出かける必要がありますか?

そうそう、
おれの星では、家の玄関を入ると光線が降りてきて、外の汚れを浄化する装置があるんだ。
浄化だけじゃなくて、体がリフレッシュされて、元気になるんだぜ。
今回
おれは、その装置を地球に売り込みに来たってわけだ。

そうですか、今はそういうお仕事をされているのですか。
しかし、それはまた、
良さそうな装置ですね。
病原菌を、家に入れることがなくなりますから。

あ〜、なんかたくさんしゃべったら、
ハラ減ったなあ、どっか食えるとこねえか?

それなら、
今日はぜひ、くろさんにごちそうさせてください。
ネコ時代に、かわいがっていただいたお礼です。
「ネコの恩返し」かぁ、そいつぁ、ありがてえ。
そこの人気の店に入りましょうか。

おお、感じのいい店じゃねえか。
・・・
せっかく地球に来たんだから、カツ丼にすっかな。
飲み物は、「本日のオススメ、ご当地ビール」にしてと、デザートはプリン・アラモード。

はい、わかりました。
(タッチパネルに触れる。)

おお、
地球も今や、3Dプリンターかあ。
どんなおいしい料理も、即座に出てきますよ。
しかも、
おいしくて、安全で、体に良くて、元気になる料理です。

これの
おかげで女性は、台所仕事から開放されたな。

はい。
ただ
ぼくは、自家菜園の野菜で作る、妻の手料理にかなうものはないと思います。
彼女の煮っころがしは、最高ですからね。

おうおう、ノロけるなあ。

ありがたいことに、
「夫婦」の講義で習ったことをまじめに実習していますので、夫婦間の愛はますます深まるばかりです。

お! うまそうなカツ丼が出てきたぞ! ビールも冷え冷えだあ!

さ、どうぞ、お先に召し上がってください。
(くろちゃん・・・くろちゃん・・・)

誰だ、うるせえな、カツ丼食おうとしてるのに。
(くろちゃん・・・起きて・・・くろちゃん・・・)

ビールも飲まないと・・・プリン・アラモードも・・・。
(くろちゃん・・・起きて・・・)

あれえ?
おめえ、しろじゃねえか。
いつ、地球に来たんだ?

はあ?
なに、寝ぼけたこと言ってるの?
くろまるが、「外に出して」って言ってるよ。

くろまる?
「外に出して」って、
今ここで一緒に食事してる・・・。

何言ってるの?
くろまるが、トイレに行きたいって、ふすまをガリガリやって抗議してるよ。

ええ? ありゃ? ここはどこだ? おれはだれだ?
今、くろまると会ってたんだよ、りっぱに一人前になっててよ。

なに、寝とぼけてんの?
未来の地球は、いいぞぉ〜。

って、
早くしないと、ふすまがボロボロにされてるよ!!
Writer
ぴょんぴょん
1955年、大阪生まれ。うお座。
幼少期から学生時代を東京で過ごす。1979年東京女子医大卒業。
1985年、大分県別府市に移住。
1988年、別府市で、はくちょう会クリニックを開業。
以後26年半、主に漢方診療に携わった。
(クリニックは2014年11月末に閉院)
体癖7-3。エニアグラム4番(芸術家)
ふと、こんな妄想が湧いてきました。