量子コンピューターの原型を作った物理学者デビッド・ドイチュ
おっ、今日はめずらしく、勉強してるな。
うん、
久しぶりに映像配信をおさらいしてるんだ。
「量子力学」の講義、一度見たのに、忘れちゃってるから。
文字起こしが、すごく助かった、ノートを取る必要もないし。
竹下先生もおっしゃってたな、ノートは取るなって。
そうそう、ノート取るのに必死で、理解がおろそかになるからね。
耳から聞いて、目で読んで、ダブルに頭に入るから、文字起こしはありがたい。
してくださった方に、感謝だよ。
で、
おもしろいんか、「量子力学」?
もちろん、量子力学もおもしろいけど、この講義はぜひ見て。
何度見ても、目からウロコだから。
ところでおれも、こいつを見たぞ。
量子コンピュータ授業 #8 量子コンピュータの歴史
VIDEO
(続きはこちらから)
うわあ、慶応大学の講義なんか、見てたの?!
2009年の「量子コンピュータ授業」シリーズ。
量子コンピューターを作りたい人向けの講義だが、「歴史」ならわかるかと思って。
量子コンピューターの歴史なんか、おもしろいの?
量子コンピューター、どいつが考え出したか知りたくねえか?
考えた人はきっと、オタクだね。
当たり!!
最初に、量子コンピューターを思いついて、実際に原型を作ったのは、オクスフォード大学の物理学者、デビッド・ドイチュ(David Deutsch)だそうだ。
ドイチュ? ドイツ人みたいな名前だね。
イスラエル生まれらしい。
実はこの動画の講師、日経サイエンス編集長の古田彩氏は、ドイチュ宅を訪ねたことがあるそうだ。
へえ、実際に家に行ったのかあ。
その時の様子をこう記している。
「呼び鈴を押し、ドアが開いた。その瞬間、思わず息を飲んだ。見渡す限り紙の海である。おびただしい数の紙が床を覆いつくし、階段をはい上がり、隅という隅を埋めつくしている。」(
二人の悪魔と多数の宇宙 )
ゴミ屋敷だあ!
そして、現れた
ドイチュ氏と言えば、ひょろひょろの長身で、着てるシャツはよれよれ、伸びすぎた長い前髪の奥から、大きな目が強い光を放つ。 それまで出会った、どんな大学教授とも違う。(
二人の悪魔と多数の宇宙 )
デビッド・ドイチュ
そんなんでよく、学生の前に立てるね。
いや、
彼は 学生の前に立つことはしない。
講義はしないし、試験もしない、まず、大学にほとんど行かない。
でも、大学教授なんでしょ?
給料も貰っていない。
もっぱら自宅にこもって、研究三昧の日々を送っている。
給料もらってないの? どうやって生活してるの?
研究奨学金と著作で、生計を立ててたらしい。
「職に就くと、やることを人に決められるので」。 (
二人の悪魔と多数の宇宙 )
ほんものだねえ。
こうなると、もう隠者だな。
ところでこの人、研究者で、頭が良くて、やせてて、家にいるのが好き。
たぶん、
2種 だよ。
もう1つの体癖は、
9種 かな?
「一つのことを掘り下げて、徹底的に追及するので、自分自身の世界に閉じこもり、現実の世界から遊離してしまいがちになる。物事を深く考え、独自の世界観をもつ。」
うんうん、ぴったりだ。
でも、自分の体癖に合った生き方してて、賢いよね。
そんな隠者にヒントを与えたのが、アメリカの物理学者リチャード・ファインマン。
自然界は量子力学的だから、古典物理学を応用した今のコンピューターは通用しないはず。
自然界をシミュレイト(模擬実験)したいなら、量子力学的にやらないとダメだと。
リチャード・ファインマン
だけど、量子力学のコンピューターなんて無い。
無いなら作れ、だ。
でも、作ったのは、この人じゃないんでしょ?
そう、彼の予言を実現させたは、2種−9種のドイチュだった。
あの、ゴミ屋敷のオタクが作ったのか?
ドイチュも、ファインマンと同じことに気づいていた。
自然を解明するなら、量子力学でシミュレイトしなけきゃ、ダメだろと。
なら、計算機の基本「チューリングマシン」を量子的に書き直してやるぞと。
「チューリングマシン」?
イギリスの数学者アラン・チューリングが考案した自動計算機のこと。
今のコンピューターの原型だ。(
e-words )
チューリングマシンのモデル
ふうん。
ドイチュ作の「量子・チューリングマシン」によって、あらゆる量子力学が説明できた ので、彼はこれを「汎用・量子コンピューター」と名づけた。
出ました! 量子コンピューター〈一号機〉!
ついに、ファインマンが予言した
「物理現象を正しくシミュレイトするコンピューター」が、具体化した。
天才、ドイチュさんのおかげだよ。
「多世界」を前提とした作られた量子コンピューター
彼はこのコンピューターを、「『多世界』で一つの計算をシェアするコンピューター」だと言った。 (
YouTube )
「多世界」?
「コペンハーゲン解釈」に対する「多世界解釈」。
あっ!! それ、知ってるよん!
知ってる?! 意外〜〜!!
なにそれ? だって、映像配信で見たもん。
「コペンハーゲン解釈」というのは、「観測前は可能なすべての状態が重なり合っており、観測行為が1つの状態を選び出し、その他の状態は消滅してしまう。ただ1つの状態が現れるということですよね。」 (
映像配信 )
意味、わかってるんか?
わかってるよー!!
「ひつじのショーン」で、良くわかったもんね。
「ひつじのショーン」?
量子力学の世界を見事に表してるって、竹下先生が見せてくれてたんよ。
ひつじたちは夜になるといつも、踊ったり、酒のんだり、好きなことをしてる。
ところが、牧場主が小屋をのぞいたとたん、みんなおとなしくベッドで寝てる。
つまり、飲んだりさわいだりのどんちゃん騒ぎが、観測する行為によって「寝る」に収束するのを「コペンハーゲン解釈」って言うんだよ。
ふう〜ん、なるほどな。
一方「多世界解釈」っていうのは、観測時に見られるかもしれない可能性ひとつずつに、別の世界があるという考え方。 でも、そっちは少数派なんだよ。
だが、ドイチュはその少数派、「多世界解釈」の支持者だった。
へえ、そうなの?
彼が「多世界」を前提として作ったのが、量子コンピューターだったんだ。
へえ??? 「多世界解釈」で、量子コンピューターができたんだ?
「どうして
量子コンピューターは 速いんですか」と聞かれて、彼は答えた。
「並行して存在する多数の宇宙で計算を分担しているからです。」(
二人の悪魔と多数の宇宙 )
つまり、
無数の宇宙で計算を分担して、得られた結果を総合して、正しい答えを抽出する。だから、速い んだと。
なるほど、たくさんの宇宙で分業してるワケだ。
彼は、宇宙の森羅万象は、量子力学で説明すべきと考えていた。
ドイチュは、量子力学一本。見上げたヤツじゃねえか!
つまり、
ドイチュさんが家にこもってひたすら研究してたのは、自然界の本質を知るためだったんだ。
たぶん、
そこが、極める物理学者のたどりつくゴールだな。
へええ。
量子コンピューターの計算速度は超高速
だが、どんなに論文を書いても、量子コンピューターは一向にメジャーにならん。
ドイチュさん、日かげの身・・。
それもそのはず、「量子コンピューターの計算速度は今のコンピューターと変わらない」と、自分の論文で数学的に証明してたから。
それじゃ、だれも振り向かないよ。
しかし、そこを突っ込むヤツが現れた。
いやいや、量子コンピューターは、明らかに既存のコンピューターより速く計算できるはず。だって、ドイチュさん、あなたのやった証明はまちがってますから。
それが、オーストラリア人数学者のリチャード・ジョザ(Richard Jozsa)だった。
リチャード・ジョザ
ええ?! 証明が間違ってたの??
そこで、
ドイチュとジョザは、量子高速計算アルゴリズムを編み出して、「量子コンピューターで高速計算ができる」という論文を発表した。
ねえ、アルゴリズムってよく聞くけど、なに?
「プログラミング言語を使って、問題の解決手順を記述したものを、コンピューターのプログラムと呼ぶ。それを実行すると、有限時間内に解が得られるものが正しいアルゴリズムである。 」(
コトバンク )
なに言ってるか、わかんない。
じゃあ、これならどうだ!
アルゴリズムとは(簡単解説)(高校教師によるプログラミング講座)
VIDEO
わかりやすっ!!
なるほどねえ、アルゴリズムとは「答えを出すための方法」か。
最初からそう言ってくれればいいのに・・。
専門家ってのは、ほんっと、難しいことばを使って、しろうとと差別化したがるよなあ。
うんうん。
続く
1994年、
アメリカの数学者ピーター・ショアが、量子コンピューターで、超高速で因数分解できるアルゴリズムを発見した。
ピーター・ショア
「答えを出す方法」を発見したんだね。
これまでのコンピューターじゃ数十億年かかるような、200ケタ以上の因数分解が、量子コンピューターなら数分か数年でできる。
すごい! 数十億年が数分に!
こうして、「何の役に立つのやら?」だった量子コンピューターが、「高速計算もできて、因数分解も得意」に代わり、人気急上昇!
良かった良かった。
ところが、ここでひとつ、困ることが起きた。
実はインターネットのRSA暗号は、因数分解が元になってる。
現在のコンピューターは因数分解が苦手だから、解けなくていいんだが。
量子コンピューターだと、暗号が解読できちゃう?
そこで、騒ぎだしたのが、セキュリティ会社や世界の軍隊。
これまで量子コンピューターなんか見向きもしなかったくせに、こぞって研究にカネ出すようになった。
ほお、良かったじゃん。
発明から苦節10年・・1994年を境に、量子コンピューター研究者が飛躍的に増えた。1994年は、量子コンピューター元年と呼ばれるようになった。
(
YouTube )
今年は、そこから27年、今も実用化に向けて進んでいる量子コンピューター。
さあ、お次はタキオン・コンピューターかな?
Writer
ぴょんぴょん
1955年、大阪生まれ。うお座。
幼少期から学生時代を東京で過ごす。1979年東京女子医大卒業。
1985年、大分県別府市に移住。
1988年、別府市で、はくちょう会クリニックを開業。
以後26年半、主に漢方診療に携わった。
(クリニックは2014年11月末に閉院)
体癖7-3。エニアグラム4番(芸術家)
わかりやすく説明されているけど、次々出てくる物理の専門用語がしろうとには難しい。それに比べて、映像配信の「量子力学」は、難しいこともわかりやすいことばで説明されているので、「量子力学っておもしろい」と思えますよ。